レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ぐうたら好奇学

ぐうたら好奇学―狐狸庵閑話 (講談社文庫)

遠藤周作こと狐狸庵先生のエッセー・ぐうたらシリーズです。

以前紹介した「ぐうたら人生入門 」の続編になります。

タイトルから分かる通り、"好奇心"が今回のエッセーのテーマになっています。

好奇心の対象は、駒場に住んでいた頃に散策した渋谷の町並み、そこで商売をする様々な人びとの人生模様、オカルト現象など、その内容は多岐に渡ります。

作品中には水商売の女たち、町の辻に佇む占い師たちなど様々な人が登場しますが、彼らに漂う人間の悲哀を描く狐狸庵山人のユーモア精神、批判精神は健在です。

もっともその根底に流れるのは、著者の人間へ対する飽くことのない好奇心であるといえます。

例えば以下のような場面は、狐狸庵山人の典型的なやり取りです。

都内にいるある婆さんでやはり霊媒をしている人があり、友人と一緒にでかけると、まずお狐さまを拝んで、畳からとんだり、はねたり大騒ぎである。そして私の妹の霊がのりうつったらしく、
「兄さん、妹だよ。あたしだよ」
と私にとりすがるのだが、こっちに妹などいない。
「ぼくには妹などおらん」
と言うと、
「兄さんは知らんが、父さんにはかくした女の子がいて、それが、あたしだよ」
と泣くまねをする。
あまりにおかしいので、他に人には聞こえぬように、
「お婆さん、芝居はよせよ。あんたも自分の言うておること、信じておらんのだろうが」
と小声で囁くと、その婆さんは口のあたりに、ニヤリとうす笑いがうかんだ。いかにもバレたかという感じで、私はそのお婆さんが大変、好きになった。

"インチキ"と断じてしまえばそれでお終いですが、著者の好奇心があくまでも個性へ対して向けられていることが分かります。

中には本当の怪奇現象?と思われるものあり、相変わらず軽妙なリズムで読めるエッセーです。