リーダーを目指す人の心得
アメリカの陸軍出身であり、レーガン大統領の元で大統領補佐官を、ブッシュ大統領時代には統合参謀本部議長、その子供のブッシュ大統領(ブッシュ・ジュニア)の政権下では国務長官を務めたコリン・パウエルの著書です。
個人的には人懐っこい顔が印象に残っていますが、叩き上げの軍人としてアメリカ軍の頂点に登り詰め、その後も政治家として主にアメリカの安全保障(分り易くいえば軍事)の方面で長年に渡りキーマンであり続けた人物です。
タイトルから分かる通り、マネジメントを行う立場の人たちをターゲットにしたビジネス書に近いスタンスで書かれています。
原題の「IT WORKED FOR ME(私はこれでうまくいった)」から分かる通り、パウエル氏自身の体験や直接聞いたエピソードなどが多く盛り込まれていますが、決して押し付けがましい内容ではありません。
とはいえ、パウエル氏は約200万人ともいわれるアメリカ軍の組織ピラミッドの頂点に昇り詰めた人物です。
彼が才能と運に恵まれたとはいえ、相当の努力も行ったに違いありませんし、確固たるポリシーを持って組織を統率してきた自負が本書からは感じられます。
例えば本書の前半で紹介されている13ヶ条のルール。
これはパウエル氏が、黒人としてはじめて陸軍総軍司令部の司令官に着任したときにジャーナリストへ紹介した自らの座右の銘です。
ここでそのうちの幾つかを取り上げてみたいと思います。
- なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ
- 楽観でありつづければ力が倍増する
アメリカの軍事力という世界でもっとも強い影響力を背景にした決断は、相当のプレッシャーがかかります。一方で自分や仲間の力を信じ、どんな困難も乗り切れるという心構えは巨大な組織のリーダーに必要不可欠な要素なのかもしれません。
- 選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし
- 小さなことをチェックすべし
一見すると、先ほどの楽観的な態度からは矛盾しているように思えますが、万全の備えがあるからこそ自信を保てるということでしょう。馴染みのある日本のことわざでいえば、「備えあれば憂いなし」、「蟻の穴から堤も崩れる」といったところでしょうか。
しかし現代において"軍隊式の企業"といえば、誰からも敬遠されるイメージを与えてしまいます。
国家の運命や部下の命を預かる軍隊のリーダーは、あらゆる種類の組織の中でもっともシビアな立場に置かれていると考えることもできます。
決して本書を鵜呑みにする必要はありませんが、優れたエッセンスが随所に散りばめられた作品であり、なおかつチームを率いる重圧を背負った人間に勇気を与えてくれる1冊です。
最後に補足ですが、本書はアメリカ国民に向けて書かれた本であるため、日本人読者にとって著者の祖国(アメリカ)へ対する揺るぎない愛国心と正義感が多少鼻につきます。
パウエル氏が生粋のアメリカ軍人というキャリアを歩んだことを考えると、それが当たり前と許容して読むのがよいでしょう。