レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

とんび

とんび (角川文庫)

人気作家・重松清氏が父と息子の絆をテーマに描いた作品です。

ちょうどドラマ放映されて注目が集まっている"旬の作品"です。
(TVはあまり見ないので、ドラマの出来はまったく分かりませんが。。。)

舞台は昭和30年代の岡山県の備前市。
主人公は運送会社で働く通称"ヤスさん"です。

短気で喧嘩っ早く、酒とギャンブル好きなヤスさんでしたが、結婚して待望の息子"アキラ"が生まれてからは仕事に打ち込み、好きな酒やギャンブルも控えて息子を溺愛する親バカっぷりを見せます。

慎ましいながらも絵に描いたような幸せな家庭でしたが、それが長く続くことはありませんでした。

それはアキラが3歳のときに、息子の身代わりとなって妻の"美佐子"が事故で亡くなってしまうからです。

それから父親と息子の2人の生活が始まります。

父親1人の手で息子を育てるのは大変ですが、温かいヤスさんの隣人や知人たちの温かい助けもあって、息子のアキラは、学歴もないヤスさんにとって「とんびが鷹を生んだ」と言われるほどの自慢の息子に育ってゆきます。

ここではこれ以上内容を詳しく書きませんが、あらすじを細かく書いても特別な設定は殆どありません。

片親として息子を育ててゆく苦悩、例えば思春期を迎えての息子の反抗期、大学進学、就職、結婚、そして初孫の誕生など親子にとって節目となる出来事を時間軸に沿って書き綴っただけのようにも見えます。

しかしながら、なんの変哲も無い(どこにでありそうな)日常の出来事を重松氏が描くと、どれも感動的になるのだから不思議です。

逆の見方をすれば、日常の中に感動が溢れていることを重松氏が小説を通じて読者へ気付かせてくれているのかも知れません。

文章の描写がまるで映画のスクリーンを見ているような感覚で流れてゆき、普段あまり読書をしない人もすらすら読めてしまいます。

逆に(私含めて)根っからの小説好きにとっては、場面描写がすこし鮮明過ぎて、もう少し読者の想像を駆り立てる余地が欲しいところでした。

雰囲気で言えば、大ヒットした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」と似ているので、この作品のファンであれば特にお薦めだと思います。