ぐうたら人生入門
遠藤周作氏は作家として2つの顔を持っています。
1つは、ノーベル文学賞の候補に挙られた実績から分かる通り、日本文学の大家としての顔。
そしてもう1つが狐狸庵山人として隠者のような生活を送りつつ手がける随筆家としての顔です。
こうした一連の随筆は、"ぐうたらシリーズ"として発表されており、本書「ぐうたら人生入門」はシリーズ最初の作品です。
もともと渋谷に居を構えて作家活動を続けていた遠藤氏ですが、都会の空気の悪さ、そして喧騒に嫌気が差して自然豊かな柿生に移り住むことを決意します。
とはいっても都会からは1時間程度の場所であり、都会から遠く離れた完全な田舎へ引っ越さないところが遠藤氏らしいといえます。
この作品が発表された1967年当時の日本は高度経済成長期であり、サラリーマンたちは豊かさを追い求めて必死に働いていた時代でした。
その中でまるで世の中の流れに取り残されたかのように、肩の力を抜いて書かれたエッセーは一見の価値があります。
書かれている内容は、決して汗水流して働く世間のサラリーマンの生き方を否定するものではなく、女性に愛の告白を堂々と行うことが出来ない男の気弱さ、そして自分の出世のため他人を押しのけるような厚顔無恥な人間になりきれない男の奥ゆかしさ、挙句の果てに嫁や子供に家庭での居場所を奪われた男の哀愁をこよなく愛するといった、ぐうたらな人間への愛に満ちています。
それはまるでサラリーマンたちへの応援歌とさえいえます。
読者も狐狸庵山人の波長に合わせて、肩の力を思いっきり抜いて読んでほしい1冊です。
風呂にでも浸かりながら読むのがおすすめでしょう。