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引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

パレスチナ

パレスチナ新版 (岩波新書)

来年には第二次世界大戦が集結してから70年が経とうとしています。

日本も枢軸国として戦争に参加し多くの犠牲者を出したましたが、日本人の大半が戦争を知らない世代に入っています。

しかし20世紀後半~21世紀に入っても世界から戦争が絶滅したわけではなく、世界の各地が戦争が続いています。

本書のタイトルになっている「パレスチナ」はその代表的な例といえるでしょう。

"パレスチナ"は古くは"カナン"と呼ばれ、この地にユダヤ人によって建国されたのが"イスラエル"です。

パレスチナとは地域を指す言葉で、正確な国境が存在していたわけではなく古くより"カナン人(=パレスチナ人)"と呼ばれる人たち(人種的では大半がアラブ人たち)が暮らしてきました。

そこへイギリスをはじめとした西欧諸国がユダヤ人を後押して突然入植し始めたわけですから、元々住んでいたパレスチナ人との間に衝突が起こるのは、当然の結果だといえます。

中東戦争と呼ばれるイスラエルとアラブ諸国との戦争は、すべての原因がそこにあるといっても過言ではなく、著者は「パレスチナ問題を理解するためには、前世紀末(19世紀)からの現代史を見るだけで充分だと私は思っている。」と断言しています。

本書はイスラエル、そしてパレスチナ人キャンプと何度も取材に訪れた広河隆一氏が、イスラエルを建国したユダヤ人、そしてパレスチナ人との関係を中心に、それを取り巻くアメリカを含めた西欧諸国、そしてアラブ諸国を含めた戦争の真相へ迫るために書いた1冊です。

われわれ日本人が「パレスチナ問題」と認識しているのは、多くの先入観、そして偏った報道に歪められ、何よりも前提となる知識を持っていないことに本書は気付かせてくれます。

例えば"ユダヤ人"という言葉1つとっても、我々日本人は黒い服と帽子をかぶった白人を思い浮かべる人が多いと想いますが、実際のユダヤ人には白人、アフリカ系(黒人)もいれば、インド人、中国人に代表される黄色人種の人びとさえいるのです。

"ユダヤ人"とは、ユダヤ教徒という宗教的な集団を意味し、キリスト教徒やイスラム教徒のユダヤ人は存在しないのです(つまりイスラエルから"ユダヤ人"とは認められません)。

また多くのパレスチナ人の土地を一方的に没収し、そこへユダヤ人が入植したため多くの難民が発生し、イスラエル国内に残ったパレスチナ人たちも経済格差に苦しめられています。

さらにパレスチナ人たちは土地を没収され、理由もなく警察に拘束されても"合法"とされる法律の中で生きているのです。つまりイスラエルにはユダヤ人以外に"法の平等"は存在しません。

もっとも悲劇的なのは、イスラエルによる無差別空爆、無差別虐殺であり、テロリスト掃討という名目の元に無実の多くの人間が殺害されているのです。

パレスチナ人たちもPLO(パレスチナ解放機構)を組織してイスラエルへ武力闘争を続けていますが、圧倒的な軍事力を誇るイスラエルとの戦力差は歴然としており、自爆テロというさらなる悲劇を生んでいます。

イスラエルにとってもユダヤ人の生存を賭けた戦いである以上、一切の妥協は許されないという姿勢も理屈では成り立ちますが、それにしても多くの市民が犠牲になる現状には疑問を抱かざるを得ません。

本書は1987年に出版されて30年近くが経過しようとしていますが、状況が改善しているとは言えず、平和からはほど遠い状況であることに変わりがありません。

つい最近(2014年7月23日)にもイスラエルよるパレスチナ・ガザ地区爆撃によって多くの市民が犠牲になり、国連の人権理事会でイスラエルを非難する決議案の採決を行った際に、日本政府は"棄権票"を投じました。

投票結果が賛成29、反対1(アメリカのみ)、棄権17だったことを考えると、実質的に日本は完全にイスラエル側(アメリカ含めた西欧諸国)の立場であったことが分かります。

わが国の政府が過去の戦争から学ぶことのできない愚かな決断を行ってしまったことが非常に残念です。

日本政府は人道的支援の立場からパレスチナ難民への支援を行っていますが、世界でもっとも悲惨な戦災が及んでいるも関わらず、国連平和維持活動(PKO)先として候補にすら上がりません。

パレスチナ問題を深く知ってもうために、1人でも多くの日本人に読んでもらうことを願います。