レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

マンボウ恐妻記

マンボウ恐妻記 (新潮文庫)

タイトルから分かる通り、北杜夫氏が夫婦をテーマに執筆したエッセーです。

これまでも北氏のエッセーでたびたび妻(喜美子さん)が登場しますが、いずれも本書のように口論でも腕力でもかなわない文字通り"恐妻"として登場します。

しかし北氏は、躁鬱病であることで有名です。

憂鬱のときは気力が沸かず、無口で原稿も殆ど書けない状態に陥ります。

いったんになるとバリバリと仕事をこなし、それ以外にも次々と新しいことを始めます。

その結果、作家としての地位を築き上げながら借金を重ね、破産寸前まで株投資にのめり込むことになります。

普通に考えれば、これは尋常なことではありません。

それでも"恐妻"は北氏を見放すことはありませんでした。

つまりそんな北氏と40年にわたり暮らし続けた喜美子さんは、"恐妻"どころか"賢妻"ということになり、やはりタイトル自体が北氏ならではのユーモアであることが分かります。

北氏は精神科医としての資格と経験を持っており、あとから自らの躁鬱状態を冷静に見つめてユーモラスにしてしまうのが、彼のエッセーの真骨頂であるといえます。

1人娘の斉藤由香氏すらあとがきに「よくぞ、この夫婦は離婚しなかったなと思う。」と書かれるほど波瀾万丈に満ちた夫婦生活を楽しく読むことのできるエッセーです。