レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

孟子

孟 子 (講談社学術文庫)

以前ブログで貝塚茂樹氏の「孔子」を紹介しましたが、孔孟思想と称されるように儒教において孟子は、孔子に次いで重要な人物です。

ちなみに「孟子」は、儒家・孟子の人名であり、彼自身が書き残した著書名でもありますが、本書「孟子」は、"孟子自身の生涯"に触れつつも、その大部分は"著書としての孟子"を解説しています。

孟子は孔子の死後約100年後に生まれた人物のため2人の間に直接的な師弟関係はありません。
また孟子の生きた戦国時代は、孔子の生きた春秋時代と大きく異なる点がありました。

それは中国思想の黄金期ともいえる諸子百家が活躍した時代だったということです。

百家争鳴といわれるように、墨家法家道家縦横家などに代表される学者や思想家が諸国を遊説し、戦国七雄に代表される国々も身分や出身地にこだわらず優れた人物を求めていました。

それは一人静かに学問や思想を追求する時代は終わり、各派が積極的に教説をアピールし続けなければならない時代に入ったことを意味します。

そのためか書物としての"孟子"には、他流派との論争、諸国の王や大臣を説き伏せる場面が多く登場します。

つまり体系的な儒教の教えというよりも、レトリックを駆使して儒教の正当性を主張する内容が多く見られ、"学者"としてよりも"雄弁家"として孟子が強く印象に残ります。

魏の恵王が政策を問う場面において孟子が例えとして用いたのが「五十歩百歩」であり、現在も有名なことわざとして使われています。

ほかにも「去る者は追わず、来る者は拒まず」といった言葉も孟子から生まれています。

中国古代史の第一人者である著者(貝塚茂樹氏)の手による「孟子」のすぐれた現代語訳、そして簡素で分かり易い解説からなる本書は、孟子を知るためのベストな1冊だと思います。