レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

埼玉化する日本



2014年の新語・流行語大賞に、“マイルドヤンキー”という言葉がノミネートされました。

これは地方に住む若者の消費文化を表した造語であり、上京志向を持たず、生まれ育った土地で学生時代からの親友と家族を大事にして暮らす新保守層を指しているようです。

実際にマイルドヤンキー論をテーマにした書籍もそれなりに出版されており、特にマーケティング業界の界隈において"マイルドヤンキー"が定着しつつあるようです。

関連書籍を読んでいるわけではありませんが、何となく言わんとしていることは分かりますし、本書はこうした文脈の延長線上に執筆された本です。

ただし著者は「マイルドヤンキー論」に理解を示しつつも、一定の距離を置き、大型ショッピングモールが点在する埼玉県をモデルケースとした新しい消費の行方を模索しています。

著者の中沢明子氏は東京生まれ東京育ちであり、自らを"消費バカ"と認めるように、最先端のファッションとグルメにアンテナを張り続けてきました。

しかし埼玉で出会ったショッピングモールの便利さ楽しさに衝撃を受け、埼玉県へ移住までした著者はこれからの消費を表す指標として、感度の高い・低いをキーワードにした消費に着目するようになります。

分かり易く表現すれば"ユニクロ"のような地方でも購入できる大量生産される商品は感度が低く、高品質・高価格で銀座や青山でなければ入手できないような小ロットの最先端で高価な商品を感度が高いと分類することができます。

本書では、日常生活の消費活動を賄うことが出来るショッピングモールが近くにあり、月に数回は少しだけ遠出して東京で最新の消費活動を楽しめる"埼玉"という地域をポジティブな意味で使用しています。

つまり都会から"ダサイタマ"と軽蔑されていた地域に特徴ある巨大ショッピングモールが次々とオープンし、東京とほど近い距離感もあって、今や消費者にとって理想的な場所になりつつあるということです。

著者独自の視点で東京近郊ショッピングモールの特徴、そして採点を行い、さらにエキナカといったJR駅と直結した商業施設の新しい可能性、地域に根付いたチェーン店の解説、埼玉県川越市を例にした町おこしの事例という感じで話題がどんどん広がってゆきます。

そして本書の後半で、それらの試みをシャッター商店街が増え続ける地方都市再生のヒントとして示してゆくのです。

著者の中沢氏は、マーケティングの専門家ではなく、まして経営者でもありません。
ファッション、グルメに興味を持つ1人の消費者という視点から本書を執筆しているだけあって、難しいマーケティング用語は殆ど登場せず、かわりにショップやブランドの実名が次々と登場します。

最新ファンションやグルメに疎い私には馴染みのない名称が登場することもありますが、具体的かつ分かり易く解説しようとする著者の姿勢には共感できます。

マーケティングや実際に商売をされている人に限らず、ごく普通の消費者にとっても新しい視点でこれからの商店街やショッピングモールの将来を考えさせてくれる1冊になっています。