僕がアップルで学んだこと
ウォルター・アイザックソン氏のスティーブ・ジョブズの伝記を読んで間もないということもあり、ついタイトルに惹かれて手にとった1冊です。
本書の出版が2012年4月であることを考えると、スティーブ死去の話題に乗じて出版された本の1冊だと思われますが、昨今の出版不況を考えると頭から否定する気にはなれなく、むしろ出版社のしたたかさを感じます。
著者である松井博氏の経歴には、1992年にアップルへ入社し、米国アップル本社のシニアマネージャーとして2009年まで勤務したとあります。
つまりアップルの業績がどん底にある時期から同社を追放されたスティーブが不死鳥のごとくCEOに復帰し、次々と新製品を発表して時価総額世界一の企業にまで成長してゆく過程を体験した貴重な人物です。
本書の構成は次のようになっています。
- 第1章 腐ったリンゴはどのように復活したのか
- 第2章 アップルの成功を支える方程式
- 第3章 最良の職場を創る
- 第4章 社内政治と賢く付き合う
- 第5章 上司を味方につける
- 第6章 己を磨く
大きな流れとしては、前半で著者がアップルで経験したこと、後半ではその経験を踏まえてビジネスマンへ向けた啓蒙的な内容になっています。
ここでは特に印象に残った部分のみをピックアップしてみようと思います。
まずアップルは、その製品自体の「美しさ」を世界的に評価されています。
それも"複雑な造形美"ではなく、"シンプルで直感的な美"といったポリシーを貫き続けています。
とくに"シンプル"に徹する志向は、世界的なグローバル企業に成長した今も組織作りにも適用されています。
守るべき社内ルールは最低限に抑えられ、組織階層は出来る限りフラットであるため、規模の大きな組織にしては驚くほど機敏に動くことが出来ます。
その機敏性を利用してやるべきことにフォーカスを絞り、その集中力によって世界が驚くような製品が次々と生まれてくるのです。
また特定の事業に集中するためには、「やること」を決めるのと同じくらいの重要度で「やらないこと」を決める必要があるという主張には説得力があります。
そのため自然と社員に与えられる裁量と責任は大きくなり、社員同士の競争を促進し、それが賞与にもダイレクトに反映される文化であるというのは併せて知っておく必要があります。
とくにアップルがライバルとしていた追い続けていたソニーをあっという間に抜き去った最大の要因はここにあると思います。
もう1つ「社内政治と賢く付き合う」と断言する著者の主張は珍しいといえるでしょう。
どちらかといえば、率直な意見を言い合えるオープンな職場を作り、社内政治を生み出さない企業風土を作るのが重要だと説くビジネス書が多いのではないでしょうか。
しかし競争の激しいアップル社内において社内政治は必要悪であり、そこから逃げてしまうと、自分ばかりか部下たちの成果さえも横取りされかねないといいます。
自分の部署の上手なアピールの仕方はもちろん、仁義の切り方など普通のビジネス書には書かれないような内容が紹介されています。
良くも悪くも多くの特徴を持った個性的な企業であり、「世界最強」のアップルの内部にこうした文化があるというのは知っておいて損はありません。