レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

海賊とよばれた男(上)



今や国民的人気作家となった百田尚樹氏の作品です。

200万部以上を売り上げ、2013年の本屋大賞(書店員による投票で決められる文学賞)を受賞した同氏の代表作品といえる1冊です。

明治18年生まれの主人公・国岡鐵造が創業した国岡商店が、戦争や外国資本の大企業(石油メジャー)の妨害といった荒波を乗り越えて大企業に成長してゆく過程を描いた長編小説です。

国岡鐵造は架空の人物ですが、出光興産を創業した出光佐三をモデルにしていることは広く知られており、城山三郎氏に代表される経済小説のように、企業とその創業者の歴史を追ってゆく手法がとられています。

出光」といえばガソリンスタンドが真っ先に思い浮かびますが、出光興産はガソリン販売だけの企業ではなく、石油精製から化学製品の製造、資源開発までその事業は広範囲に及び、2014年時点で4.5兆円にも及ぶ売上を誇る日本有数の巨大企業です。

この出光興産を一代で築き上げた出光佐三は、まさしく立志伝中の人物であるといえます。

本作品の構成は以下のようになっています。

  • 第一章 朱夏 昭和20年~昭和22年
  • 第二章 青春 明治18年~昭和20年
  • 第三章 白秋 昭和22年~昭和28年
  • 第四章 玄冬 昭和28年~昭和49年
  • 終章

上巻では一章・二章が収められていますが年代を見てもらえれば分かる通り、物語は終戦直後の日本から始まります。

国岡商店は戦前から海外進出していたこともあり、敗戦によって壊滅的な打撃を受けました。

にもかかわらず鐵造は、重役たちの人員整理の意見を退けて「ひとりの馘首もならん」と厳命します。

そこには「店員は家族と同然である」という信念があり、就業規則も出勤簿もないという独自の社風がありました。

万が一の時には「ぼくは店員たちとともに乞食をする」とさえ言い放つ鐵造には、明治生まれの頑固なまでに信義を重んじる精神を持っていました。

そもそも国岡商店は、その成り立ちからして異様でした。

神戸高商(現・神戸大学)を卒業した鐵造は、同級生が銀行や商社へ就職する中で従業員がわずか3人の酒井商会に入社します。

そこで商売のイロハを学んだ鐵造は、日田重太郎という資産家から6000円もの大金を借りて独立します。

日田は資産家ではありましたが、「国岡はいずれ立派なことを為す男だ」と見込んで、私財を投げうち利子も返済の必要もないと前置きして鐵造へ大金を渡すのです。

当時は国内で車が普及しておらず、鉄道や船さえも石炭を燃料としていた時代であり、その中で鐵造はいち早く"石油"の持つ可能性に着目します。

しかし時代の流れを先読みし過ぎたため需要が供給に追いつかず、また古くからの縄張り意識の中で国岡商店は苦戦を続けます。

そこで鐵造は土地で販売することをやめ、伝馬船に軽油を積んで海上で販売する手法を思いつきます。

門司や下関の漁船相手に関門海峡で急速に勢力を伸ばす国岡商店の伝馬船は、「海賊」としてライバル商店に怖れられ、その由来が本書のタイトルになっています。

やがて国内での成長に限界を感じた鐵造は、海外へ活路を開くべく満州上海、そして東南アジアにまで進出してゆくのです。

江戸時代生まれの岩崎弥太郎渋沢栄一といった実業家が国内産業を興した人物ならば、国岡鐵造(出光佐三)は国内企業が海外進出するきっかけを作った実業家の1人といえます。