レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

聞き出す力


プロインタビュアーを自称する吉田豪氏が「週刊漫画ゴラク」で連載したコラムを書籍化した1冊です。

プレゼンテーションを指南する書籍が多い中で、聞く側をテーマにした阿川佐和子氏の「聞く力」がベストセラーとなりましたが、本書はそのブームに便乗したことを著者はあっさりと認めています。

吉田氏の単行本を読むのは今回がはじめてですが、ずいぶん前に購読していたプロレス雑誌で彼の記事はかなり読んだ記憶があります。

当時はプロレスラーや格闘家のインタビューがメインでしたが、その内容はいつも個性的でした。

それは試合の内容を細かく言及してゆくよりも、試合以外の話題を掘り下げる傾向があり、そこからは意外性のある(もしくはいかにもその人らしい)エピソードが飛び出してきます。

いずれにせよ面白い記事だったことは間違いありませんでしたが、出版不況により雑誌が次々と休刊してゆく過程で、元々実力のあった吉田氏がプロインタビュアーへ転身して活躍していることにそれほど違和感はありませんでした。

肝心の本書の内容ですが、やはり予想通りというべきかインタビューのテクニックに関することは読んでいてもあまり頭に入ってきません。

たとえばインタビュー前に入念に下調べをするという点は、プロとしての真摯な姿勢を感じるものの、それほど目新しさは感じさせません。

それよりも折に触れて明かされる過去のエピソードの方が圧倒的に面白いのです。

大物俳優からアイドル、スポーツ選手、政治家に至るまでさまざまなジャンルの有名人にインタビューを試みています。

例えば吉田氏が長渕剛のインタビューのためにスタジオを訪れてみたら、彼は本格的な機器を現場に持ち込んでのハードなトレーニング中であり、インタビュー内容も「殺すぞ!」とか「死ぬ気」を連呼する物騒な内容になった挙句、原稿チェックで発言内容が大幅に修正されていたなど、数々のエピソードが収録されています。

つまり本書は上手なインタビュー(聞き手)の指南書としてだけでなく、こうした楽しいエピソードを期待して読むだけでも充分に価値があるのです。