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下天を謀る〈上〉

下天を謀る〈上〉 (新潮文庫)

最近紹介する機会の多い安部龍太郎氏の歴史小説ですが、今回の主人公は藤堂高虎です。

浅井長政にはじまり徳川家康に仕えるまで実に8度も主君を変えたといわれ、のちに32万3,000石の大大名となった戦国武将です。

儒教に影響された江戸時代の武士道は主君へ忠義を貫き通すことを美徳としていましたが、戦国時代は主君を見限って他家に仕えることは必ずしも悪いことではありませんでした。

現代でいえばキャリアアップのために転職をするようなものであり、実際に高虎も主君を変えるたびに出世してゆきました。

彼のキャリアを見てゆく上で比較として分かりやすいのが石田三成です。

二人とも同じ近江の出身であり、浅井家の滅亡後ほぼ同じ時期に三成は秀吉に見出され、そして高虎は秀吉の弟である秀長に仕えることになります。

同じ豊臣家(羽柴家)の家臣として、三成は文官タイプ、高虎は武将タイプとして順調に頭角を現してゆきます。

そして秀吉の死後、高虎はいち早く豊臣家を見限り徳川家康に急接近しますが、三成は徳川家と敵対し関ヶ原の戦いで敗れて滅びることになります。

藤堂高虎の身の丈は六尺三寸(約190cm)あったといわれ、その体躯から分かる通り猛将として敵将を討ち取り手柄を挙げてきました。

ただし歳を重ねるにつれ築城の名人として、また内政や外交の面でも手腕を発揮して文武両道の武将として家康から重宝されました。

高虎は家康の最期にあっても外様大名で唯一枕元に侍ることを許され、その死後も2代将軍秀忠、3代将軍家光の世話役を勤めるなど、三河以来の家臣以上に信頼されていたのです。

本作品は上下巻合わせて1000ページ近くに及ぶ大長編歴史小説です。
多くの武将が現れては消えていった戦国時代を最後まで生き抜き、太平の世を見届けた藤堂高虎の生涯を思う存分味わうことができます。