レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

マヤ探検記 上


まず本書のタイトルにある"マヤ"とは、メキシコやグァテマラといった現代の中南米(ユカタン半島)を中心に栄えたマヤ文明を指します。

このマヤ文明はアメリカ大陸でもっとも早くに栄えた文明であり、その歴史は同じアメリカ大陸のアステカ文明インカ文明よりも古く、四大河文明にも劣らない高度な文明を築いていました。

しかしコロンブスがアメリカ大陸と発見した15世紀末には既に滅んでいた文明であり、長きに渡りほとんど存在さえ知られていない謎に満ちた存在でした。

時が流れ19世紀にはじめてマヤ文明の遺跡を本格的に探索したのが、本書の主人公であるジョン・ロイド・スティーブンズフレデリック・キャザウッドの2人でした。

まだ"考古学"という分野が黎明期であり、体系的な研究や支援が得られなかった時代に遺跡を発見するのは、スティーブンズたちのような好奇心と勇気を兼ね備えた探検家たちに委ねられていました。

スティーブンズは弁護士、キャザウッドは建築技師の資格を持ちながらも、ジャングルの奥深くに眠る古代文明の遺跡を発見するという魅惑にとりつかれ、1839年にニューヨークからユカタン半島の付け根にあるベリーズに向かって旅立ちます。

そしてもちろん彼らの探検は旅行とは異なります。
熱帯雨林という過酷な自然条件の中をボロボロになりながら突き進んでゆく2人の姿は、勇敢な探検家というよりジャングルをさまよう遭難者に近いものでした。

さらに2人の前に立ちはだかったのが、南米各で勃発していた内戦による治安問題でした。

武器を手にした原住民のインディアンやメスティーソたちによりたびたび危険にさらされますが、探検にあたり外交官の使命も同時に帯びたスティーブンズの卓越した交渉術により何とか危機を乗り切ってゆくのです。

本書ではマヤの探検記だけでなく、スティーブンズとキャザウッドの経歴についても細かく触れています。
そこからは活発で社交的なスティーブンズと、物静かで職人気質のキャザウッドという対照的な人物像が浮かび上がってきます。

しかし何ヶ月にも渡って協力し合って探検を成功させたことからも分かる通り、2人の相性は抜群だったのです。


上下巻700ページ以上にも及ぶ大作ですが、19世紀前半に未知の文明を求めた2人の探検家の足跡を余すことなく現代に伝えてくれる伝記であり、同時に読者を夢中にさせる手に汗握る冒険記でもあるのです。