木村政彦 外伝
「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は読み応えがあり、伝説の柔道家・木村政彦の実像を知ることのできる大作ノンフィクションでした。
そして前述の本を木村政彦の"正伝"として位置づけ、本書は文字通り"外伝"として書かれたものです。
序盤では、"史上「最強」は誰だ?"と題して、木村政彦と山下泰裕が柔道で対決したらどうなるかをシュミレーションしています。
山下泰裕といえば木村政彦と同じくかつて"史上最強の柔道家"と評された名選手であり、一般的な知名度は木村より上ではないでしょうか。
木村と山下は現役時代が重なっていないため夢想と言ってしまえばそれまでですが、2人を知る柔道家へのインタビュー、それぞれのエピソード、さらに柔道経験者である著者が具体的なテクニックにまで言及し、かなりマニアックに検証しています。
中盤以降は対談&インタビュー形式で木村政彦にとどまらず、柔道全般について縦横無尽に語っています。
本書に登場する対談相手を書き出してみます(カッコ内は肩書き)。
- ヒクソン・グレイシー(柔術家)
- ミスター高橋(新日本プロレスの元レフェリー)
- 安齋 悦雄(元拓大柔道部監督)
- 青木 真也(総合格闘家)
- 岩釣 兼生(元柔道家)・石井 慧(元柔道家・総合格闘家)
- 岡野 功(元柔道家)
- 堀越 英範(元柔道家)
- 松原 隆一郎(社会経済学者)・磯部 晃人(柔道評論家)
- 平野 啓一郎(小説家)
- 角幡 唯介(作家・探検家)
- 菊池 成孔(ミュージシャン)
- 猪瀬 直樹(作家)
- 原田 久仁信(漫画家)
- 吉田 豪(ライター)
- 綾小路 翔(ミュージシャン)
- 小林 まこと(漫画家)
- 中井 祐樹(元総合格闘家・柔術家)
見て分かる通り、柔道界にとどまらず幅広い分野の個性豊かな人たちが次々と登場してくるため、対談テーマは似ていても発言内容には思った以上にユニークさがあり、読者を飽きさせません。
誤解を恐れずに言うと、本書は私が学生時代によく読んでいたプロレスのムック本(雑誌の別冊)の雰囲気によく似ています。
木村政彦の生涯を丁寧になぞり人物像を明らかにするという点では、前作である程度やりきった雰囲気があり、本書にはそれを補足しつつも遊び心が垣間見れるからなのかも知れません。
ハードカバーで分量もたっぷりあるため、木村政彦ファンになりかけている私にとってかなり贅沢な気分で読書に浸ることができました。
なお本書を10倍楽しむために、前もって前作「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を読んでおくことを是非おすすめします。
そして本書を読み終わる頃には、"木村政彦マニア"になっているはずです。