レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

想いの軌跡


本書は「ローマ人の物語」で有名な塩野七生氏のエッセイや雑誌に寄稿した記事を1冊の本にまとめたものです。

人気作家にとって色々な雑誌に寄稿したエッセイを本にまとめて出版することは当たり前の企画なのですが、意外にも彼女にとってはじめての試みだったようです。

副タイトルに「1975-2012」とあるように、収められているエッセイの時期も幅広いのが特徴です。

塩野七生といえばベストセラー作家でありながら昔からイタリアを拠点に生活しているという点で非常にユニークですが、地中海を中心とした歴史小説を執筆するために取材旅行へ出かける拠点としては合理的な選択といえます。

それだけに著者のエッセーは、歴史のみならず作品中では滅多に触れられない現代のイタリアを読者たちへ紹介してくれます。

例えばサッカー、食文化、映画、ローマで流行しているファッションなどに留まらず、観光地化してゆきインフレが進む経済状況など、他の日本人作家にはない話題を提供してくれるのです。

もちろんイタリアでの日常、作家活動の裏話など個人的な話題も取り上げらており、作家・塩野七生氏の素顔に近いものが垣間見れるエッセイもあります。

著者の作品は壮大な長編歴史小説が多いのですが、エッセーを通じてその舞台裏を知ることで作品に奥行きが出てきます。

蛇足ですが、著者はエッセイの中でイタリアの穴場観光スポットも紹介しており、イタリアで長く生活する著者の言葉だけに信用できるのです。