ロング・ロング・アゴー
重松清氏の短編が6つ収録されている文庫本です。
何気ない日常を切り取って物語へと綴ることに長けている著者ですが、本書に収められている作品は少年・少女の日常、またはかつての日常を切り取っています。
- 転校で別れた友達
- 小さい頃一緒に遊んだ年上の友だち
- 印象に残っている担任
- 初恋の相手
- 親戚の名物おじさん
本書の中で扱っている題材を並べてみましたが、誰にでも子どもの頃の思い出として当てはまるものがあるのではないでしょうか。
かつての自分がそのまま主人公のように当てはまる読者もいるかも知れません。
それくらい身近な出来事がテーマになっている作品が多く、かつ共感と感動を呼べるストーリーへと昇格させる著者の技量には舌を巻くしかありません。
かつて毎日遊んだ友だちとも大人になれば会う機会が滅多にないという人も多いはずです。
場合によっては会えずじまいで永遠の別れを経験するかも知れません。
それでも多感な時期を一緒に過ごしたかつての友は、心の中で大切な位置を占め続けるはずです。
何故なら彼らの存在は、大人になり住む場所や付き合う友人が変わったとしても、そこに至るまでの自己形成に多大な影響を与えてくれたはずだからです。
どの作品も自分の子どもの頃を思い出しながら読んでしまい、それでいて少しずつ違った余韻を与えてくれる秀逸な作品ばかりです。
そして読み終わってから、ふと少年の頃の自分がこの作品を読んだらどんな感想を持っただろうという空想が湧いてくるのです。
友だちと毎日学校や放課後に遊ぶことが当たり前で、そんな日々が終わることなど頭によぎることもなかった頃の自分には、本作品を読んでもピンと来なかったかも知れません。
読んでくれるかは分かりませんが、作品に登場する主人公たちと同じ歳くらいの娘に本書を勧めてみたいと思います。
なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか
八幡神社は日本国内に7817社あるとされ、八幡神社や八幡宮、若宮神社などが該当します。
その数は2位の伊勢信仰系列の4425社を引き離し、圧倒的な1位に君臨しています。
個人的には、石清水八幡宮で元服した"八幡太郎"で有名な源義家にはじまり、源氏の氏神から必勝祈願を願う武将たちが信仰する神社へと発展したという印象があります。
一方でそこで祀られている八幡神は、「古事記」や「日本書紀」にまったく登場しません。
日本には八百万の神が存在すると言われますが、この2つの書物(記紀神話)に登場する神は327柱に過ぎないことを考えると不思議なことではないのかも知れません。
その八幡神は海外から渡来してきた神とされ、新羅(今の韓国)からの渡来人がもたらした信仰を起源とするという説が有力です。
やがて東大寺と密接な関係を持つようになり、仏教と強く結びつくことで八幡大菩薩としても崇められるようになります。
それが仏教の布教という国家的事業の後押しもあり、全国へ広がっていったという経緯を持っています。
本書では八幡神社のほかに10神社についても同じように、その起源や祀られている神を系統だって説明しています。
- 天神(天満宮、天神社、北野神社など)
- 稲荷(稲荷神社、宇賀神社、稲荷社など)
- 伊勢(神明社、神明宮、皇大神宮、伊勢新宮など)
- 出雲(出雲大社、出雲大神宮、気多大社、大國魂神社など)
- 春日(春日大社、春日神社、吉田神社など)
- 熊野(熊野神社、王子神社、十二所神社、若一王子など)
- 祇園(八坂神社、須賀神社、八雲神社、津島神社、須佐神社など)
- 諏訪(諏訪神社、諏訪社、南方神社など)
- 白山(白山神社、白山社、白山比咩神社、白山姫神社など)
- 住吉の信仰系統
案内板によってそこに鎮座する神社の由来を知ることができても、その神社の属する系統を知る機会は殆どありません。
そうした意味で本書は有意義であり、日本人であるならば知っておいて損はないと言えるでしょう。
平成史
巻末に年表が掲載されているものの、本書の内容は"平成"という時代を著者(保阪正康氏)の視点から総括した内容となっており、いわゆる年表に沿った内容ではありません。
新書という分量を考えると、あらゆる視点から平成を論ずることは不可能ですが、それでも話題は比較的多岐に渡っている印象を受けました。
著者は昭和・平成で3つずつキーワードを挙げており、本書を読み解くヒントになっています。
昭和
- 天皇(戦前の神格化天皇、戦後の人間天皇、あるいは象徴天皇)
- 戦争(戦前の軍事主導体制、戦後の非軍事体制)
- 臣民(戦前の一君万民主義下の臣民、戦後の市民的権利を持つ市民)
平成
- 天皇(人間天皇と戦争の精算の役)
- 政治(選挙制度の改革と議員の劣化)
- 災害(天災と人災)
年号と密接に結びついるもの、それでも"天皇"というキーワードが2度出てくるのは注目すべき点です。
著者は戦前生まれであり、少年時代に戦争を体感している世代です。
そうした年代の人たちにとって天皇は、大元帥、のちに日本の象徴という2つの時代を経験していることになり、それだけに天皇へ対する思い入れが若い世代より深い印象を受けます。
つまり著者は、近代史においては天皇の言動や立場を分析することにより時代が見えてくるという歴史観を持っています。
一方で政治についてはかなり辛辣な意見を持っているようです。
特に1994年(平成6年)に導入された小選挙区制と比例代表並立制が元凶であるとし、
「思想を持った政治家が敗者となり、生活次元の利害関係に長けている者が勝者となる」と断言しています。
いずれにせよ平成が終わり近い未来に戦前・戦中を知る世代がいなくなり、日本には戦争を経験したことのない人びとのみが暮らす国になります。
つまり真の意味で「戦後」と呼ばれることはなくなるのです。
自分が生きている時代が、歴史の流れの中からどのような時代に位置するのかを考えるのは、誰にとっても必要ではないかと考えさせてくれる1冊です。
裁判官の人情お言葉集
本ブログでも紹介した「裁判官の爆笑お言葉集」の第二弾です。
まずは裁判官の印象に残る"お言葉"が紹介され、その裁判のきっかけとなった事件やその背景が紹介されてゆく構成は前作と同じです。
数々のエピソードが掲載されてきますが、その一部を紹介してみたいと思います。
- 「あまりに弁解が過ぎると、被害者の家族は怒り、裁判所は悲しくなります。」
おそらく裁判官の腹の中は怒りに煮えくり返っていたに違いありませんが、感情に左右されず法に忠実であることを求められる立場の人間が持たねばならない自制心との葛藤が垣間見られます。
- 「久しぶりでしょう。息子さんを抱いてください。子どもの感触を忘れなかったら、更生できますよ。」
ドラマの1シーンのようにジーンとくる言葉です。
- 肩の力を抜いてほしい。90点でなく、60点でもいいんじゃないかな。
社会的にエリートとされる裁判官から人間の弱さを認めるセリフが出てくると良い意味で意外性があります。まるで相田みつをのような一言です。
1つ1つのエピソードは2~4ページでまとまっており、ちょっとした時間で少しずつ読める本のため手軽に手にとってみてはいかがでしょう?
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