移民の経済学
国際連合の資料によると日本に住む移民は250万人、外国人労働者は10年間で約3倍の146万人にまで増えているそうです。
また2019年の訪日外国人数は3188万人であり、10年間で約5倍に増えています。
街で見かける外国人が増えたことを実感していますが、改めて数字で見ると驚きよりも納得という印象を受けます。
本書では経済学者である友原章典氏が"移民受け入れ"にテーマを絞り、道義的、思想的なフィルターを排除して経済学的に検証された結果を紹介してゆくというスタイルをとっています。
政府が積極的な移民受け入れ政策を進めた場合、何となく漠然とした不安を抱く人も多いのではないでしょうか。
本書で取り上げられているテーマは以下のようにかなり具体的であり、移民を受け入れたケースにおける経済的な関心事をほぼ網羅しているといってよいでしょう。
- 雇用環境が悪化するのか
- 経済成長の救世主なのか
- 人手不足を救い、女性活躍を促進するのか
- 住宅・税・社会保障が崩壊するのか
- イノベーションの起爆剤になるのか
- 治安が悪化し、社会不安を招くのか
まず日本よりも長い期間に渡りかつ多数の移民を受け入れてきたアメリカやヨーロッパの研究が参考になりますが、日本固有の事情を加味した分析も行っており、かなり具体的な数字が提示されています。
ただし著者は、こうした分析結果はあくまでもいろいろな仮説を設けた試算であり、参考に過ぎないことにも留意する必要があると主張しています。
たとえ経済という分野に絞ったとしても分析によって未来を確実に予測することは不可能であり、万能ではないことを読者も認識しておく必要がありそうです。
戦争含めた世界情勢や世界経済の景気の変化、異常気象や天災などの要素によって、移民政策の受ける影響はかなり変わってくることは容易に想像がつきます。
また面白いのは、研究者や対象とする前提条件、分析方法によってまったく逆の結果が出るという点です。
たとえば移民の受け入れによる市民の賃金への影響については、研究者の間でも意見が大きく異なってくるテーマのようです。
これも労働者を学歴、もしくは職種で分類するか、また特定の地域もしくは国全体を対象にするかといったアプローチ方法によって結果が変わってくるのは当然であり、一概にいずれか一方が誤った結果であるとは片付けられません。
見方によっては研究結果を淡々と示しているだけの内容ですが、その数値は具体的であり、これをどう捉えるかの最終判断は読者に委ねられているといってよいでしょう。
また冒頭にあったように、本書で示されているのは移民受け入れに伴う経済的な検証のみです。
実際に政策へ移す際には、さらに多角的な面から検討を行い、それぞれのメリットとデメリットを把握した上で判断することが大切になってきます。