レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

十一の色硝子


タイトルから推測できるように11編の作品が収められている遠藤周作氏の短編集です。

  • ワルシャワの日本人
  • カプリンスキー氏
  • 幼なじみたち
  • 戦中派
  • 代弁人
  • ア、デュウ
  • 黒い旧友
  • 環りなん
  • うしろ姿
  • 五十歳の男
  • 聖母賛歌

遠藤氏の長編は、「沈黙」や「深い河」に代表されるように人間の宗教や死生観に踏み込んだ重々しいテーマの作品が多く、一方でエッセイではジョークの効いた軽快な作品が多く、その雰囲気は正反対と言ってもいいくらいです。

そうした意味では短編集の作品は、ちょうどその中間地点にあるような位置付けにあります。

著者にはフランス留学の経験があり、その頃の体験をモチーフにしたもの、かつて大病を患った経験、昔の飼っていた犬の話などをテーマに選んでおり、本書の作品は私小説の側面があります。

短編ということもあり、伏線もなくストーリーが淡々と進んでゆきますが、その根底に潜むテーマはかなり重いことに気づきます。

人間の傲慢、差別、孤独、老い、身近な人の死など、お世辞にも明るい内容ではありません。

ただし作品中では重々しい雰囲気を前面に押し出すわけではなく、作品に登場する主人公たちの日常生活の中に溶け込む形で描かれています。

なぜなら先ほど挙げたテーマは重々しく感じるものの、誰にとっても身近なものであり、人生において一度は経験することになる事象だからです。

1つの例えとして、誰もが常にいつか訪れる自らの"死"を意識して生活しているわけではありません。しかし自らの大病、または身近な人の死を通じて、今まで以上に”死”を意識し始めることもあるでしょう。

そして遠藤氏は生死の境をさまよう大病を何度か経験しながら作家活動を続けてきただけに、こうしたテーマを敏感に感じ続けて作品中に投影し続けてきたのかもしれません。