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ルポ 技能実習生



技能実習生という言葉はよく聞きますが、個人的には縁がないため実態をよく知らない存在でもありました。

法律では技能実習生を以下のように定義しています。
人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的とする。

額面通りに受け取れば、先進国(日本)による発展途上国への国際支援ということになりますが、本書を読むとその実態が大きくかけ離れたものであることが分かります。

日本国内に技能実習生として滞在する外国人は2019年末時点で41万人となり、在留外国人の14%を占めています。

この比率は留学生(11%)を上回っており、外国人労働者そのものが最近10年間で3倍以上に増えているといいます。
たしかに都内ではコンビニや飲食店に留まらず、あらゆる業界で外国人を見かけることが当たり前になっています。

本書はジャーナリストの澤田晃宏氏が実習生全体の53%を占めるベトナム人実習生へ焦点を当て、現地での丁寧な現地取材を通じて技能実習生の舞台裏、つまり実情を赤裸々に暴露しているといえます。

まず実態をシンプルに表すと、日本企業にとっては労働力不足の解消、ベトナム人にとっては出稼ぎが目的であると言えます。

現場を取材して分かってくるのは、日本での仕事を通じて習得した技術がベトナムへ還元される機会は殆どなく、滞在中に上達した日本語そのものくらいしか役に立たないということです。

つまり技術・知識の移転による国際貢献は実効性を持たないスローガンに成り下がっているのです。

ベトナムの実習生送り出し機関、日本の実習生受け入れを仲介する管理団体の間にはキックバック(賄賂)、売春を含めた違法で行き過ぎた接待が横行し、そのツケは100万円以上になることもあるベトナム人実習生が負担する手数料となって表れることになります。

多くのベトナム人実習生が存在することで日本とベトナムとの間に独自の労働者派遣産業が誕生したといってもよく、法律を無視した業界独自のルールと利権が渦巻く世界といえるでしょう。

それでもベトナム人が日本を目指す動きは増加の一途を辿っています。 なぜならば日本で技能実習生として3年間働けば、借金を返済した上で300万円の貯金を残すことが可能であり、これだけの額があれば故郷に家を建て、家族の生活を楽にすることができるからです。

もっともそれは万事うまくいった場合であり、中には労働条件や待遇が劣悪な職場もあり、結果的に実習生が失踪し不法滞在を続けるといった問題も出てきています。

2020年1月1日時点でベトナム人実習生の不法残留者数は8,8632人というからかなりの人数です。

政府もこうした問題は把握しており、2018年12月に「特定技能」の在留資格を新設して技能実習から移行を試みますが、技能実習の教訓を生かせているとは言えない状況です。

特定技能は技能実習とは違い、国際協力という側面を捨てて国内の深刻化する人手不足を解消する仕組みとして発足したものですが、今のところ開き直った政策のわりには使い勝手が悪いというお役所仕事にありがちな残念な状況にあるようです。

最後に著者は韓国を訪れ、労働力不足解消のため日本に先行して単純労働分野において外国人の積極的な受け入れを行った雇用許可制(EPS)を取材しています。

おそらく韓国で実施している雇用許可制は、日本が推進しようとしている政策と方向性では一致しているからです。

日本より制度運用がうまくいっている面がある一方、賃金未払い、外国人差別といった問題はやはり存在し、その根底にはEUやアメリカも直面している移民問題と同じ問題が横たわっているといえそうです。

それは世界でグローバル化が推進された結果、国境を超えた人の移動が爆発的に増えた一方、文化や価値観の違いによる衝突、そこから生じる雇用問題とったものであり、日本のみならず世界的に見ても課題が山積みであることを実感させられます。