カエサル
カエサルといえばローマ帝国の礎を築き上げ、その死後も"神君"として讃えられた偉人です。
彼はガリア人(ケルト人)、ゲルマン人と戦いを繰り広げながら領土を獲得してゆき、彼らをローマ文明に組み込んでゆきますが、後世その過程はヨーロッパ創造に例えられ、19世紀の歴史家モムゼンは「ローマが生んだ唯一の創造的天才」とカエサルを激賞しています。
私にとってカエサルは塩野七生氏の「ローマ人の物語」の印象が強く、その起伏に満ち、何度も危機と栄光を経験する人生は数多くの偉人伝の中でも指折りの魅力を持っています。
本書はラテン文学の専門家として慶應義塾大学の教授でもある小池和子氏がカエサルの生涯を追ったものです。
カエサルの業績は多く、時代背景や前後関係までを詳細に描こうとすればかなりの分量になることが予想されますが、著者はまえがきで次のように解説しています。
本書が目指すのは、新書というコンパクトな形態を生かし、カエサルに関する最も基本的で重要な事柄を整理して簡略に述べることである。
カエサルを伝記や物語にすると魅了的であるがゆえに眩しすぎる存在になってしまいますが、あえて一歩引いて客観的にカエサルを見ることで分かってくる事があります。
例えばカエサル自身の著書である「ガリア戦記」や「内乱記」と他の同時代の史料を比べてみると彼が決して完璧な人間ではなく、自身の行動を正当化し敵を貶めるために出来事の順序を並び替えたり、当事者でありながら都合の悪い事実には触れなかったりすることもあります。
もちろんカエサルの魅力は聖人君子のような品位にあるのではなく、喜怒哀楽を持った1人の人間としてでにあり、時には失敗を経験しながらそれを乗り越えてゆくという人間臭さにあります。
そしてその魅力は本書にようにカエサルに関する生涯を客観的に追ってゆく中においても色褪せることはありません。