死ぬこと以外かすり傷
毎年多くの若者が新卒として社会に出ていきますが、そのとき彼らは先輩や上司たちと比べて自らには経験、実績、知識、スキルといった社会人に必要な要素が圧倒的に不足していることを実感するはずです。
しかい逆の見方をした場合、若者たちが勝っているのは体力や行動力であると言えます。
本書の著者である箕輪厚介氏は、20代にして雑誌の編集者、30代はじめで多くのヒット作を手掛けた敏腕編集者として有名な方です。
先ほど若者が優れている点は体力と行動力であると言いましたが、そこにさらに要素を加えるならば、"勇気、柔軟性、情熱"であると言えます。
若者たちには築いてきた地位や実績がない故に、失敗を怖れずにチャレンジできるアドバンテージがあり、業界の常識や慣習に染まっていない分、自由な発想を生み出しやすいという利点があります。
さらに感受性の豊かさ、まだ何者でもない人間が持つ野望は、情熱という形になって現れるのではないでしょうか。
箕輪氏はそんな若者の持つアドバンテージをより極端に活かして頭角を表します。
それは自らのことを、落ちるか落ちないかギリギリの網の上でこそ輝く人間だと分析している点からも分かり、本書ではそれを直接的で過激な言葉で書き綴っています。
例えばビジネス書で書かれがちな"失敗を怖れずにチャレンジしよう"という表現は用いられず、本書では"予定調和からは何も生まれない。無理だと言われたら突破する。ダメだと言われたら強行する。ギリギリのラインを歩きながら火を放っていく"ことだといった感じで語られています。
これまた普通のビジネス書であれば"常識に囚われず自由な発想をしよう"という部分については、"言ってはいけないことを言ってしまえ、誰も行かない未開を行け、バカなことにフルスイングせよ"といった独特の表現が用いられています。
"情熱を持って仕事に取り組もう"といったありがちな表現も、"ただ熱狂せよ。狂え。生半可な人間が何も成し遂げられないのは、いつの時代でも変わらない"といった感じで表現しています。
つまり、より(特に若者の)読者の心に響きやすい表現を用いているのです。
ただし勘違いしてはいけないのが、こうした破天荒な言動だけでは不充分という点です。
著者が破滅型に思えるほどに破天荒な言動を行って成功してきたことに間違いありませんが、仕事において誰よりもスピードを重視し、周りが寝ている間も量をこなしてきたという事実があり、昨今の働き方改革を完全に無視して夢中で走り続けてきた結果なのです。
その点についても著者は自覚していて、次のように断りを入れています。
編集者として、サラリーマンとして、僕のスタイルは一般的ではない。
異常だし、狂っているように見えるかもしれない。
それでも著者の言葉に心動かされた読者たちへ対して「バカになって飛べ!」と背中を押してくれる1冊であることは間違いありません。
大部分の人にとって仕事でどんな失敗をしても命までは取られないし、せいぜいかすり傷程度で済むという想いを込めて付けられたタイトルは、著者なりの応援の言葉なのです。