美味放浪記
本書は作家の檀一雄氏が国内外を問わず各地の名物料理を味わう旅をエッセーにしたものです。
作家にはグルメが多い印象がありますが、よく考えると美味しい料理を食べるのは誰にとっても嬉しいはずです。
たとえばTVでグルメロケが得意な芸能人がいるように、その美味しさを文字で表現することに関しては作家の右に出る職業はありません。
檀氏は自らを、美食家ではなく繁華街や市場にある立喰屋・立飲屋をほっつき廻るのが性に合っていると謙遜していますが、私から見ると立派な美食家に思えます。
それは高級料理を好んで食べるという意味ではなく、さまざまな地域にある独特の食文化、たとえば発酵食品やら内臓料理といったクセの強いものであっても先入観なく何でも平気で口に入れることができるからです。
本書は国内編、そして海外編で半々に分かれており、目次を見るだけで読むのが楽しみなラインナップが揃っています。
<国内篇>
- 黒潮の香を豪快に味わう皿鉢料理(高知)
- 厳冬に冴える雪国の魚料理(新潟・秋田)
- 郷愁で綴る我がふる里の味覚(北九州)
- 中国の味を伝えるサツマ汁(南九州)
- 日本料理・西洋料理味くらべ(大阪・神戸)
- 瀬戸内海はカキにママカリ(山陽道)
- さい果ての旅情を誘う海の幸(釧路・網走)
- 素朴な料理法で活かす珍味の数々(山陰道)
- 夜店の毛蟹に太宰の面影を偲ぶ(札幌・函館)
- 野菜のひとかけらにも千年の重み(京都)
- 攻撃をさばいて喰べるワンコソバ(津軽・南部)
- 飲食の極致・松坂のビール牛(志摩・南紀)
<海外篇>
- サフラン色の香りとパエリアと(スペイン)
- 初鰹をサカナに飲む銘酒・ダン(ポルトガル)
- 迷路で出合った旅の味(モロッコ)
- チロルで味わった山家焼(ドイツ・オーストリア)
- 味の交響楽・スメルガスボード(北欧)
- 保守の伝統がはぐくむ家庭料理(イギリス)
- カンガルーこそ無頼の珍味(オーストラリア・ニュージーランド)
- ボルシチに流浪の青春時代を想う(ソビエト)
- 贅沢な味 ア・ラ・カ・ル・ト(フランス)
- 悠久たる風土が培う焼肉の味(韓国)
- 食文化の殿堂・晩秋の北京を行く(中国)
本書を執筆は1960年代の経験を元に執筆されたものであると推測されますが、国内篇だけを読んでみても私の知らない料理が数多く登場します。
檀氏は料理を人類学的、歴史的に考察することなど考えたことがないと言いながら、今現在で消えてしまった食文化も本書に収録されている可能性があり、今から約60年前の貴重な食文化を伝える本としても価値があります。