事故物件、いかがですか? 東京ロンダリング
前回紹介した原田ひ香氏による「東京ロンダリング」の続編になります。
前作は連続性のある1つのストーリーでしたが、本作品は8篇の短編から成り立っています。
前作からの続編という面を持ちながらも、短編1つ1つが独立した物語という不思議な1冊となっています。
告知義務のある事故物件に住むことでロンダリングを行う人たち、そしてそれに関係する人たちを描いているという点では共通しています。
物件のロンダリングに関わる人を作品中では"影"と呼びますが、この職業自体が作者の創造によるものです。
一方で高齢化、独身の割合が増え続けている社会情勢を鑑みると今後、ますます孤独死が増えていくことが予想され、かなり現実味のある設定のように感じます。
作品中においては物件をロンダリングする"影"の知名度は低く、関係者以外に世間には知られていません。
短編の主人公は事故物件の大家さん、ロンダリングの仕事をしている同僚を持つ会社員、人生に行き詰まり新たにロンダリングの仕事を斡旋された男女、またロンダリングを斡旋する側の業者、さらには失踪した人を探すことを専門をしている業者などが登場します。
その中には前作の主人公であるりさ子も登場し、相場不動産の人たちも同じように登場するため、前作を読んでおいた方がより楽しめるという点は間違いありません。
物件ロンダリングという仕事そのものよりも、この仕事を通じて生まれてくる人間ドラマが作品の中心になっています。
それと同時に大都会東京において、たとえばそれぞれの事情で家庭を飛び出したり、1度社会のレールから外れてしまった人が抱える生きづらさという社会構造を鋭く観察しているという点も特徴になっています。
どの分野の小説であれ、人間社会の抱える諸問題と何らかの接点を持たない作品は読者の共感を得ることができないと言う点は今も昔も変わりません。
本作品はこうした問題への冷静な観察眼、そして問題を抱えてしまった人たちを暖かく見つめる視点がストーリーや場面によって書き分けられており、読者を共感とともに引き込んでくれる魅力があります。
冒険家の角幡唯介氏は、現代日本はシステムが整備され、かつ街が清潔になっていったことで、そこに住む人びとが"死"というイメージから遠ざけられた状態で日常生活を送っているという主旨の発言をしていました。
こうした風潮が、かつて人が病気や事件によって死んだ場所を極端に忌み嫌うといった感情を生み出している原因になっており、個人的には確実に増え続けている"事故物件"という存在を改めて考えさせてくれるきっかけにもなった作品です。