レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

東京ロンダリング



本ブログでも何冊か紹介している原田ひ香氏が2011年には発表した作品です。

ロンダリング(laundering)には洗浄、洗濯という意味がありますが、"マネーロンダリング=資金洗浄"というマイナスイメージのある言葉にも使われます。

宅建業法上の告知義務として、賃貸物件の契約者へ対して過去に人の死があった物件の告知義務があるそうです。

いわゆる"事故物件"である事実を伝えなければならないという法律らしいですが、これは事故があった直後にその物件に住む人が対象となるらしく、いわゆる2人目以降の人には告知義務は発生しないようです。

そこで大家の要請に応じて、事故物件に1ヶ月だけ住んでその物件をロンダリング(洗浄)する人たちを描いた作品です。

世界有数の大都市である東京では、人知れず借りている部屋で事故や事件で死を迎える人もそれなりの数に昇り、いわゆる"孤独死"として報道される機会も多い社会問題です。

しかもこうした孤独死は近隣へ漏れる匂いによって気付かれる、つまり死後一定の時間が経過してから発見されることも多く、こうした部屋の原状回復を専門に行う特殊清掃業者が存在します。

一方で事故物件に1ヶ月だけ住んでロンダリングする人たちというのは著者が本作品を執筆するために考え出した職業であり、著者が社会問題に関心を寄せ鋭く観察していることが分かります。

作品中でロンダリングをする人たちは事故物件に1ヶ月だけ住み、次々と事故物件を転々として暮らすことを生業としています。

ロンダリングの報酬として家賃は無償、そして1日あたり5000円が支払われ、それを斡旋する相場不動産が作品のおもな舞台となります。

主人公はりさ子という30過ぎの女性であり、離婚して家を飛び出し住む場所を失って途方に暮れていたところ、偶然にもロンダリングの仕事に就いています。

仕事を紹介した相場社長は、ロンダリングという仕事の秘訣を次のように説明します。
「いつもにこやかに愛想よく、でも深煎りはせず、礼儀正しく、清潔で、目立たないように、そうしていれば絶対に嫌われない」

つまり近所から怪しまれない程度の振る舞いをしつつ、目立たないままロンダリングの期間(1ヶ月)を過ごすということですが、控えめで地味な性格のりさ子にとっては天職といえるほどぴったりとハマります。

しかし事故物件にはそれぞれ個別の事情があり、りさ子が望む平穏無事な生活を脅かすようなトラブルが起きるのです。

事故物件でトラブルが起きるといっても、本作品はホラー小説ではなく、心霊現象などを扱っている訳ではありません。

それはあくまでも生きている人間が引き起こすトラブルであり、著者が創造したロンダリングという仕事を通じて描かれる人間ドラマが見どころになります。

この架空のロンダリングという仕事は現代社会においてかなりリアリティがあり、読み進めてゆくと本当にこうした仕事があるのではないかという錯覚を抱いてしまうほどストーリー構成がしっかりとしています。

現代社会らしい題材を扱いつつも物語はどこか昭和っぽさを感じさせるのは、相場不動産が多くの若い世代が暮らしつつも、雑多な下町的な雰囲気の残る高円寺を舞台にしていることも関係していると思います。

結果としてあらゆる世代が楽しめる作品に仕上がっており、是非一読して欲しい1冊です。