レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

老人初心者の覚悟



阿川佐和子氏が雑誌「婦人公論」で2016~2019年の間に執筆した連載エッセイを文庫化したものです。

タイトルに"老人初心者"とありますが、著者は1953年(昭和28年)生まれのため本エッセイが執筆された時期では63~66歳ということになります。

たしかに最近は年配でも活動的な人が多く、このくらいの年齢であれば老人の入口、つまり老人初心者という点は納得できます。

著者は私よりかなり年上ですが、それでも昭和の作家が好きな私にとっては、同業者からも短気で"瞬間湯沸かし器"として有名だった阿川弘之氏の長女という印象が強いのです。

著者は当時も今もTVで活躍していますが、作家の血を受け継いで多くのエッセイや小説なども発表しており、本ブログでも過去に何冊か紹介しています。

父親のエッセイが大正生まれで旧帝国海軍に在籍していたこともあり、骨太で厳格な人柄が伺える内容になっているのに対して、著者のエッセイは親しみやすく等身大の自分を描いている印象を受けます。

若い世代とのギャップや価値観の違いに嘆きつつも一方的にそれらを拒絶するのではなく、なるべく理解したり受け入れようと努力する姿勢が見られ、職業柄という要因もありそうですが、好奇心旺盛なことが伺われます。

また老いつつある自身を客観的に観察して、腰が痛い、涙腺がゆるくなった、可愛らしい声が出なくなったということをエッセイ中で告白しながらも、必要以上に悲観することはなく、あくまで前向きに捉えてゆきます。

なお著者は密かな結婚願望を持ちつつも、長く独身であったことで有名ですが、このエッセイが連載されている最中の2017年に元大学教授の方と結婚しています。

比較的高齢での結婚であるものの、50代、60代での結婚が増えている時代であり、そう珍しいことではありません。

それよりも著者の数々のエッセイの中ではじめてパートナーに言及しているという点も注目できるのではないでしょうか。

いずれにしても初老を迎えながらも、それを人生の一部として楽しんでいる様子が読者にも伝わってきます。

私自身にも確実に訪れる老後を考えると、老人になった我が身を哀しみつつも楽しめるような著者の姿勢を見習いたいと思います。

ちなみに著者の父親時代に活躍した作家の老年期のエッセイは、老いによる悲哀と愚痴の混ざったような内容が多く、遠からず訪れる"死"を明確に意識したものが多い印象がありますが、それはそれで文士らしくて個人的には好きなのです。