剣のいのち
津本陽氏の幕末を舞台とした歴史小説です。
主人公は紀州藩を脱藩した東使左馬之助。
若干18歳にして心形刀流師範・伊庭軍兵衛より中伝目録免許を受け、二尺八寸五分の大刀・文殊重國を佩刀しているという設定です。
"設定"といったのは彼は作者が創造した架空の人物であり、本作品は左馬助が風雲の幕末時代で活躍する歴史フィクション小説になっています。
左馬之助には京都で偶然出会い、夫婦同然の仲となる芸妓の佳つ次(かつじ)が登場しますが、この2人の登場人物以外はすべて実在の人物が登場します。
脱藩した左馬之助は薩摩藩に身を置き、そこで同じく剣客である中村半次郎(のちの桐野利秋)と出会い、さらには薩摩藩から新選組へ客分として潜入する危険な任務を請け負うことになります。
そこでは近藤、土方、沖田、斎藤、永倉などといったお馴染みの新選組のメンバーたちと行動を共にすることになります。
さらには同郷で幼い頃からの親しい友人である伊達陽之助(のちの陸奥宗光)の薦めによって勝海舟・坂本龍馬らの率いる海軍操練所へ入ることになります。
激しい時代の流れに翻弄されるように、左馬之助の立場は目まぐるしく変わってゆくことになりますが、先ほど述べたように作中では実在の人物が登場し、さらに作中での政治的な事件はすべて史実に基づいて細かく書かれています。
つまり左馬之助の目線がそのときの立場で描かれているため、薩摩藩、新選組、幕府海軍(のちの海援隊)といったさまざまな視点から幕末史が楽しめる内容になっています。
もちろん津本陽氏の十八番ともいえる左馬之助がさまざまな強敵たちと対決する剣劇シーンもたっぷりと描かれており、歴史好きの読者を楽しませてくれるエンターテイメント性がかなり高い作品です。
昔流行した講談本の現代版のような作品であり、大人も夢中にさせてくれる1冊です。