レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ネトゲ戦記



暇空茜(ひまそら あかね)氏による自伝です。
私自身は著者の名前は知らず、本のタイトルと書店のポップ紹介文だけを見て購入してみました。

本書は以下の3部構成になっています。

  • 第一部 ネトゲ編
  • 第二部 起業編
  • 第三部 裁判編

いきなりですが本書の秀逸な点として、3部構成で書かれているテーマに見事なメリハリがある点です。

文章自体にはゲーム用語やネットスラングなどが多用されていることもあり、読みにくさを感じる部分がありますが、ページ下部に細かく注釈が付けられています。

また本書は右開きの横書きというスタイルですが、これは注釈の位置を含めてオライリー(O'Reilly)本に代表されるコンピューター技術書では定番の構成であり、個人的には面白い試みだと思いました。

まず第一部のネトゲ編ですが、著者はいわゆる高校を中退してひたすら自宅に籠もりゲームに没頭したネトゲ廃人であった経歴を持っています。

おもにUO(ウルティマオンライン)、FF11(ファイナルファンタジー11)といったゲームに没頭した時期を描いており、著者はいずれのタイトルにおいても有名プレイヤーとして活躍しています。

もっとも当時はeスポーツのような職業はないため、ゲーム自体では生計は立てられない時代です。

実はこの2つのタイトルは私自身もプレイした経験があり、かつネットゲームの中毒性は身をもって体験していることから、かなり感情移入しながら読むことができました(もっとも私がネットゲームを始めたのは社会人になってからであり、仕事が忙しくなるにつれ2年ほどでプレイするのを止めています)。

元々著者にはゲームの才能があり、さらにそこで得た知識と経験を活かしてゲーム会社へ就職することになります。

その顛末が第二部の起業編になります。

ゲーム業界に限らず当時のネットベンチャーの労働環境はブラックなところが圧倒的に多く、私も細いジャンルは違うものの同じような環境で仕事をしていた経験があることから、ここでも感情移入しながらどんどん読み進めてゆきました。

またネットベンチャーによくある現象として、創業メンバー(=経営陣)間での人間関係が泥沼化するという点です。

本当の意味での黎明期(事業立ち上げ時期)では寝食を忘れて共通の目標に向かってワンチームで進むことができますが、逆に事業が軌道に乗り始めると色々な問題が表面化することがしばしば起こります。

ここで創業メンバーの何人かが抜け、成長してゆく企業と倒産する企業とに別れます。

著者の場合、青天の霹靂のようにある日会社から追い出されることになります。

知らないのは本人のみで、水面下ですべての根回しが完了している状態であったため、当時の著者に反論の余地はありませんでした。

しかし社運を賭けたゲームタイトルの製作において中心的な役割を担っていたのは著者であり、この措置を不当であるとして裁判で争うことになる顛末が第三部の裁判編です。

大きな功績がありながらも、著者ほど鮮やかに創業者メンバーから裏切られる経験を持っているのは、ある意味で貴重だと言えます。

この第三部が一番長い章となりますが、それも裁判が8年にも及ぶ争いとなったからでした。

さすがに私にはこうした裁判の経験はありませんが、この部分は単純な好奇心として面白く読むことができました。

裁判で使われた書面もかなり豊富に掲載されており、そこからは著者が全身全霊で裁判を闘ったことを伺い知ることができます。

結果的に著者は裁判に勝利して6億円もの賠償金を手にすることになりますが、全人格、全人生を賭けて闘い続けた年月を思うと決して法外な金額ではない気がします。

現在の著者が具体的にどのような活躍をされているのか詳しく調べていませんが、個人的には再びゲーム業界に戻ってきて欲しいと思いました。

たまたま私自身の経験と重なる部分があり感情移入できる場面の多い1冊でしたが、そうでない人にとってもノンフィクション作品として充分に楽しめる1冊だと思います。