国境のない生き方 私をつくった本と旅
著者のヤマザキマリ氏は、「テルマエ・ロマエ」に代表される漫画家として有名ですが、エッセイ作家としても活躍されています。
とくに彼女の経歴はとてもユニークであり、それが多方面で活躍している源泉力にもなっています。
母親が音楽家(ヴィオラ奏者)という母子家庭で育ち、自身は音楽家ではなく画家を志すようになります。
14歳でヨーロッパへ1人旅を経験して17歳で高校を中退してイタリアで画家となるために留学し、そこで11年間暮らすことになります。
やがて詩人のイタリア人との間に子どもが誕生するものの、詩人のあまりの生活力の無さに離別し、シングルマザーとして男の子を育てることを決意します。
そこで画家として生活するのは難しいため、漫画家として生活費を稼ぐことを決意するのが現在の活躍につながっていきます。
それから日本に帰国して北海道でイタリア語の講師、ラジオパーソナリティ、TVリポーターとして活躍しつつも、のちに学者をしているイタリア人と結婚します。
それからは夫の仕事の都合で、エジプトやシリア、ポルトガル、アメリカなどを転居しながら暮らし、現在はイタリア在住という経歴を持っています。
彼女自身が好奇心や独立心旺盛だったことはもちろんですが、14歳でのヨーロッパ1人旅、17歳でのイタリア留学は母親の教育方針であったというから驚きです。
本書ではそうした彼女自身の経歴を追いながら、幼少期より読書家であったか彼女が人生の転機となった際に読んでいた(漫画も含む)本、映画などを紹介しています。
著者に限らず青春の多感な時期、人生の岐路に立った時、大きな困難にぶつかった時に出会った書籍や映像作品、音楽は後々になっても大きな影響力を持ち続けるものです。
著者は1967年生まれで私よりすこし上の世代であるため、漫画は完全に一致しないまでも幾つかの作品は私が読んでいたものと重なる部分があります。
また活字作品では開高健、安部公房、大岡昇平、ガルシア・マルケス、三島由紀夫などの作品を取り上げています。
映画はヨーロッパ作品がメインであるため私が知っている作品は殆どありませんでしたが、それでも著者が紹介している作品を興味深く読むことができました。
著者ほど起伏に富んだ退屈しない人生を送った人は少ないと思いますが、それだけに経験してきた挫折も大きく、かつては死のうと思った時期もあったようでした。
もう1つのテーマである"旅"については、私たちが思い浮かべるツアー旅行や1人旅とはすこし意味合いが違っていて、多くの国々で暮らしてきた経験そのものが著者にとっての"旅"であり、さすがにスケールが違います。
著者の言いたいことは、自分の暮らしている町や国を超えて、地球サイズの地図の中で生きてゆけば仕事や人間関係といった悩みは大抵片付くものであり、あらゆる扉を開け放って生きる場所を見つければいいというエールにほかなりません。
イタリア在住の著者自身もまだまだ1か所に留まる気はないようです。