飢餓同盟
昨年から読み始めた安部公房も本書で6作目になります。
彼の作品の特徴は、どの作品からも完成度の高い独特の雰囲気が漂っている点です。
この"雰囲気"は作品の舞台だけでなく、登場人物たちも含まれます。
こうした登場人物たちの中には、主人公自らが唯一正気を持っている(と信じている)場合もあれば、主人公を含めた登場人物全員の正気を疑うようなストーリーが繰り広げれたりします。
本作品は後者に属します。
舞台は花園町というどこにでもありそうな架空の地方都市であり、かつては温泉街として賑わっていましたが、20年ほど前の大地震の影響で温泉がとまってしまい、今では目玉となる産業や観光地もない、雪深い寂れた町という設定です。
この町では代々の大地主、そして事業によって成功した大金持ちが絶大な権力を持つ、保守的な雰囲気が漂ってます。
一方で彼らによる実質的な町の支配を快しとはしない、不幸で複雑な過去を持つ恵まれない環境にいる人たちも存在していたのでした。
また保守的な町が故に、ほかの町から移住してきた"よそ者"として疎外されている人も存在しました。
花井太助もこうした境遇にいる1人でしたが、彼らを束ねて既存の権力者を打倒する(つまり革命を起こす)ために"飢餓同盟"を結成するのです。
花井は既得権益者たちの"富"を徹底的に否定しますが、同時に現実問題として革命を遂行するためには金(資金)が必要であるという矛盾に直面するのです。
そこでかつて温泉街で栄えたという地域性を生かして地熱発電所を建設する計画を思いつきます。
計画は壮大であるものの、秘密結社のメンバーは10名足らずであり、それぞれのメンバーが事情を抱えていてなかなか計画通りに進みません。
それどころか敵同士を離反させる作戦が、逆にその結束を高めてしまったり、女性問題が邪魔したりと前進どころか後退してしまう始末です。
それなりに深刻な状況に置かれている登場人物たちは誰もがどこか楽観的に描かれており、絶望的な状況がつねに喜劇のように感じてしまいます。
もし自身の境遇から将来への希望がまったく見えず、社会からも疎外された状態であれば、すくなくとも権力者たちの没落や社会の混乱を心のどこかで望むと思いますが、同時にそれが非現実的な妄想であることも意識するはずです。
中には花井のように本気で革命を企てる人間も出てくると思いますが、それは傍から見れば狂気であり、その結末は悲劇どころか喜劇で終わってしまうという現実を非現実的に描いた作品であるといいます。
