レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

全宗


火坂雅志氏による戦国時代小説です。

江戸時代に入るまでは僧侶が代表的な知識人層でした。

彼らの専門知識や教養は戦国武将たちにも重宝され、そこに注目した火坂氏は織田信長に仕えた沢彦、徳川家康に仕えた金地院崇伝を主人公にした作品を発表してきました。

そして今回紹介するのは、豊臣秀吉へ仕えた施薬院全宗(やくいん ぜんそう)を主人公にした歴史小説です。

歴史小説を注意深く読んでいると、秀吉の侍医としてその名前が登場することはありますが、その詳細に触れらている作品は殆どありません。

つまり全宗は医者であると同時に秀吉のブレーンでもあったのです。

彼は早くに両親を亡くして比叡山薬樹院の住持となっていましたが、信長の比叡山焼き討ちに遭ったのちに、当時医学の頂点にいた曲直瀬道三の弟子となり、その後に秀吉に仕えることになります。

全宗は甲賀出身であることから、本作品ではその出自を忍び(下忍)としています。

命がけで故郷を逃れた全宗には、強烈な上昇志向、つまり戦国武将たちのように立身出世へ対するギラギラした野望を持っていました。

全宗は曲直瀬道三門下で頭角を表してゆきますが、やがて師の道三は彼の持つ医者という身分に不相応な野望にも気付き始めます。

それは政治的な野心であり、たとえ師であろうとも敵として立ち塞がる相手は容赦しないという覚悟を伴ったものでした。

普通の武将であれば戦場での働きによって立身出世を成し遂げようとしますが、彼は武力によってではなく、独力して身に付けた医学という知識を武器にして成り上がってゆくことを決意します。

もちろん全宗には先祖から授かった領地や格式のある血統はなく、自分と同じような境遇から頭角を現し始めた秀吉に目を付けます。

信長の勢力が全盛期の頃から秀吉の将来を見抜き、彼に天下を取らせることによって自らの野望を達成しようと目論むのです。

火坂氏らしい戦国時代においてユニークな方法で立身出世を遂げるストーリーという着目点は読者を楽しませてくれます。