メービウスの環〈下〉
全作品の累計部数が2億以上という、世界的な作家ロバート・ラドラム氏の「メービウスの環」下巻のレビューです。
上巻から引き続き、たった1人で目的すら不明の謎の組織に立ち向かう主人公のジャンソンは、かつては(=上巻で登場した時には)敵であったスナイパーを相棒として受け入れます。
月並みに言えばヒロインの登場ですが、彼女もかつて自分自身が所属していた組織(国務省特殊部隊)に疑問を抱きジャンソンと行動を共にするようになります。
2人の地道な探索により少しずつ敵の全貌が明らかになりつつなりますが、その正体はジャンソンの過去にも深い関わりを持っており、「メービウス計画」の名の元に全ての謎が必然的に結びついてゆきます。
前半は主人公のジャンソンと同じく、深まる謎に読者も少々ストレスを感じてしまいますが、その背景には一環した作者の政治的なメッセージが込められています。
そして後半は一気に物語が進行してゆき、上巻のはじめのようにテンポよくストーリーが進んでゆきます。 後半は展開を急ぎ過ぎた感じがありますが、クライマックスとしたは躍動感があり、悪くはありません。
単に面白いストーリーだけでは飽きられてしまい、これだけ長く世界的にラドラムの作品が読まれることは無かったと思います。
ラドラム自身はアメリカ人であり、彼の半生はアメリカの全盛期とも重なりますが、超大国アメリカの覇権、そして全世界へ対してその価値観を押し付ける姿勢がやがて重大な問題を招きかねないという危機感を抱いていており、その政治的な視点が本作品の各所に盛り込まれています。
本作品が「アメリカ同時多発テロ事件」発生以前に書かれながらも、その可能性を示唆した内容であるというのは有名ですが、本作品が単なるスパイ小説ではなく、世界中の様々な民族、そして国家が持っているイデオロギーを冷静に観察し続けたラドラムの視点が生かされている内容であると言えます。