レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

坂の上の雲〈2〉

坂の上の雲〈2〉 (文春文庫)
本小説は、この小説の主人公たちでである秋山兄弟正岡子規の書生(学生)時代より始まります。

この3人の共通点は愛媛県松山市(伊予松山藩)の出身であることであり、かつては幕府方に所属していため薩長派閥が幅を利かす明治政府においては、冷遇された地域であることを意味していました。

著者はこの3人を主人公した理由の1つに、こうした地域から巣立った人材が新しい時代を背負っていく姿が象徴的であると考えたかも知れません。


正岡子規の場合、その生涯が短かったこともあり少年~青年時代にかけてを丹念に描かれています。

恥ずかしながら子規については国語の教科書に出てくる"明治時代の俳人"という程度の認識しかなく、彼の友人である夏目漱石と同じように、どこか陰気な教養人といった印象を勝手に持っていました。


しかし本書に登場する子規は病身でありながら、その精力的な行動力には目を見張るものがあります。


外国に留学している秋山兄弟は軍人として着実に成長しつつあり、もはや田舎出身の書生といった雰囲気や立場では無くなってきますが、それと対照的にパッとしない新聞社で安月給の社員として働きながらも前向きで無邪気な子規の姿は対照的に描かれています。


大国を相手に始めた日清戦争において当時の普通の国民と同様に戦況に対して一喜一憂する姿は、後世において近代俳句の巨匠と評されるイメージとは違った、どこか微笑ましい印象さえ受けます。


言い方をかえれば子規は決して俗世間から隠遁した風流のみに没頭した人物ではなく、彼の姿を通じて当時の日本国民の雰囲気がよく伝わってくる生き生きとした血の通った存在であるといえます。