坂の上の雲〈1〉
司馬遼太郎氏の数多くの作品の中でも、代表作の1つと言われる長編歴史小説です。
日本の近代史の中でも明治という時代に焦点を当て、とくに日清戦争~日露戦争を舞台とした明治の中盤~後期を中心に描かれています。
幕末から明治にかけては、徳川家による封建制度と鎖国といった中世的な価値観を壊すための革命の期期なのに対し、明治時代の中期に入ると、開国し文明化した日本が欧米を中心とした世界の先進国に追いつくための富国強兵の時代だったといえます。
伊藤博文や山形有朋といった何人かの明治維新の元勲も健在でしたが、新時代の担い手たちへ意識してスポットを当てた物語構成となっています。
その中でも特に代表的な存在として、日本騎兵を創設した秋山好古、その弟であり海軍の参謀として活躍した秋山真之の兄弟、そして真之の友人であり、近代俳句の創始者といわれた正岡子規を取り上げています。
著者の他の作品と比べるとノスタルジックな描写が目立ちますが、司馬氏の生まれ育った時代を考えると無理がないかもしれません。
しかしそれだけ著者とって思い入れのある時代ということであり、時代の躍動感や雰囲気が読者に濃厚に伝わってくる正真正銘の大作です。