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坂の上の雲〈3〉

坂の上の雲〈3〉 (文春文庫)

2巻のレビューで登場した正岡子規は、作品の中盤にも至らないうちに早くもその生涯を終えてしまいます。

子規の弟子ともいえる高浜虚子の視点から見ると、子規の晩年は体を病に蝕まれて殆ど寝たきりの状態であり、さらに経済的な余裕が無い中、看病疲れの家族(母親と妹)に囲まれた暗い風景として写ります。


一方で子規本人を中心として晩年を見ると、自らの死期を悟りつつも花鳥風月を慈しみ、一方でもはや筆をとることも叶わない病身にありながらも口述を通して新聞へ「病牀六尺」を発表し続け、常に世間への好奇心を失わない姿は、強靭な精神力というよりも天性の前向きな姿勢を見て取れます。


これは決して楽天家ということではなく、教養や知識といったものを一旦脇へ置き、俳句を通じて自然を愛することで培われた豊かで柔軟な心があったからであり、""を楽しむとを知っていた人間だったと思います。