レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

風神の門 (上)

風神の門 (上) (新潮文庫)

司馬遼太郎といえば日本を代表する歴史小説化ですが、本書のような忍者小説も幾つか手掛けています。

その中でも忍者小説の王道ともいうべき真田十勇士をモチーフにして書かれている作品です。

本書の主人公は十勇士の1人、伊賀忍者・霧隠才蔵です。

主人公が真田幸村でも猿飛佐助でもないところが作者らしい設定です。

物語の舞台は慶長18年。

関ヶ原の戦いから十数年が経過し、太平の世が訪れたかに見えましたが、水面下で家康が天下統一最後の仕上げを行うべく動き出します。

再び戦乱の世が迫りつつある京の郊外に、ふらりと才蔵が現れます。

そこで才蔵は、人違いで徳川方の刺客に襲われ、やがて出会う1人の謎の美女によって大きく運命が変わってゆきます。。。

司馬氏の小説には珍しいほどに、次々と美女が才蔵の目の前に現れます。

やがて甲賀の忍者、そして風魔の忍者が才蔵たちの行く手に立ちはだかるようになります。

大阪の役では徳川、もしくは豊臣いずれかの陣営に所属するというのが武将やその配下で働く忍びの者にとって常識でしたが、霧隠才蔵はそのいずれにも属することを拒みます。

もっとも天下の大勢は徳川家に定まりつつあり、豊臣家には関ヶ原の戦いで所領を失った武将たちが起死回生のために集ったという雰囲気がありました。

猿飛佐助は最初から真田幸村の配下として登場しますが、才蔵は自らの技能を売る忍者として中立の立場を貫きます。

つまり幸村の配下でもなく、佐助の仲間でもない用心棒のような存在といった方がしっくりくるかもしれません。

司馬氏の作品で似たような主人公を探すとすれば、雑賀孫市に近いでしょうか。

歴史小説を執筆している時の著者は、小説の奥行きを持たせるために話が脇道にそれることがよくありますが、本作ではストーリーに集中して書かれています。

つまり登場人物同士の会話や情景描写の密度が多く、純粋に物語を楽しめる作品ではないでしょうか。