レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

風神の門 (下)

風神の門 (下) (新潮文庫)

大阪の役は戦国時代の終焉を告げる戦いでした。

そして結果だけを見れば、強力な軍事力を擁する徳川軍が豊臣軍を圧倒した戦いでもありました。

さらには豊臣方は政略上の駆け引きでも老練な家康の前に為す術なく翻弄されたといえます。

つまり事実上、関ヶ原の戦いで天下の帰趨が決定していたといえるでしょう。

もちろんこれは後世から見た結果でしかなく、当時大阪城に入場した真田幸村をはじめとした豊臣方の武将たちは、わずかなチャンスに望みを賭けていたのだと思います。


だから圧倒的な実力差をもった徳川方を題材にして小説を書いても、当然のようにドラマチックな展開は見込めません。

逆に豊臣方を題材にするとドラマチックにはなりますが、どうしても悲劇寄りの内容に偏りがちです。

そこで結果的には豊臣方の武将・真田幸村に協力する忍者として活躍しながらも、自らの自由な意志で戦国時代最後の瞬間を駆け抜けた霧隠才蔵を主人公にした本作品が生まれたのだと思います。

この作品の霧隠才蔵は常に武士の格好で登場し、忍者でありながら変装することも殆どありません。

また忍術で敵を翻弄するというより、正面から敵と戦うことを好む、忍者というより剣豪のイメージが似合う主人公です。

才蔵は"絶望"や"悲哀"といった感情を殆ど表に出しません。

彼は悲劇のヒーローになるつもりなどまったくなく、己の腕で運命を切り開こうとする人間として描かれています。

そのため作品全体を通して陽気で痛快な物語という印象を受けます。

読者サービスのために、才蔵が当時はまだ無名の剣豪・宮本武蔵と対決するシーンなどもあり、エンターテイメント性を意識して書かれた作品です。