レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

日本辺境論

日本辺境論 (新潮新書)

哲学・思想研究家である内田樹氏による1冊です。

本書は「日本人文化論」について書かれており、著者はその特性を"日本人は辺境人である"と表現していることから本書のタイトルになっています。

本書の前半では日本人が辺境人である理由を、太平洋戦争オバマ大統領の就任演説中国文化との交流の歴史など様々な例を取り上げて説明してゆきます。

日本は宗教、思想にとどまらず、日本語でさえも"きょろきょろ"しながら他国の標準を取り入れてきた経緯があり、日本が世界標準を作り出すことは決してないと結論付けています。

後半では日本人の特性が欠点だけではなく、優れた長所にもなり得る点を中心に論じられてゆきます。

その最たる例が日本には世界標準を作り出す能力はないが、世界標準を学ぶ能力については抜きん出ているというものです。

日本人は学びに対しては無防備に開放を行い、学ぶ対象への意味や有用性を一旦保留して、一時的に「愚鈍」になることで知的パフォーマンスを向上させることができるのです。

それは師匠や先生に対して、ほとんど何の疑念も挟まずに師事する弟子や生徒といった伝統的な構図から見て取ることができます

本書をタイトルだけで判断すると大胆で極論めいたように感じるかも知れませんが、実際に本書を読むと著者が学者(教授)であるだけに、その理論的根拠や構成の組み立ては決して飛躍したものではなく、思わず納得してしまうものばかりです。

さらに日本人を辺境人であると定義したのは著者がはじめてではなく、半世紀以上も前から優れた政治学者であり思想家でもあった丸山眞男などの知識人たちが指摘してきたことでもあり、それなりのバックボーンの上に成り立っている考えでもあるのです。

新書という分量だけに緻密で重厚といった内容ではありませんが、"技術立国"や"クールジャパン"といった表層的な事象だけでなく、もう少し日本人論を掘り下げて考えてみたい人にとっては最適な1冊ではないでしょうか。