レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

鷹ノ羽の城

鷹ノ羽の城 (講談社文庫 し 4-2)

白石一郎氏が20代の頃に発表した歴史小説です。

戦国時代の肥後で白人との混血児である武将和仁人鬼親宗の活躍を描いた作品です。

人鬼は実在した武将ですが、彼が混血児だったという記録はありません。

ただし「異様な赤ら顔で目が輝き、幼い頃から毛深く、手足が熊のような大男」という記録が残っており、当時は宣教師が九州に寄港し始めていただけに、けっして荒唐無稽な設定ではありません。

それでも著者が若かったせいか、かなり大胆な設定で書かれていると思います。

和仁家は大友家の支配下にある豪族でしたが、新興勢力の竜造寺家、さらに急激に勢力を伸ばしつつある名門・島津家といった三つ巴の争いが繰り広げられた地域であったため決して安泰な状態ではありませんでした。

子どもの頃からその日本人離れした外見によって父親からも疎まれ、山奥で忍びの一族によって育てられるというのが作品序盤のあらすじです。

やがて成人の歳となり、外見上の差別や戦国武将として過酷な運命の中で生きてゆく過程が後半部分になります。

もし主人公が普通の日本人という設定であれば、何の新鮮味もない普通の戦国小説で終わってしまいます。

世間から差別され、自らの出自に悩む武将が戦乱の世を渡ってゆく複雑な心境が克明に描かれており、混血児という設定が強烈なスパイスとなり、読者に斬新さを与えてくれます。