ニホンミツバチが日本の農業を救う
長年に渡りニホンミツバチを養蜂し、その生態の研究を続けてきた元高校教師でもある久志冨士夫氏による著書です。
はるか昔から日本の自然と共生してきた野生昆虫であるニホンミツバチの名前を知っていても、その生態に詳しい人は少ないのではないでしょうか。
例えば普段人間たちが食用にしているハチミツは大部分が輸入品、もしくは外国から持ち込まれたセイヨウミツバチを日本の養蜂家が飼育して採取したものであり、アフリカを起源とするセイヨウミツバは日本の自然環境下において人間の保護なしには生存できない種類のハチです。
もちろんニホンミツバチの巣からもハチミツを採取することは可能であり、しかも美味らしいのですが、そのハチミツが広く流通されていないのは、その生産効率がセイヨウミツバチの8分の1程度であり、何よりもニホンミツバチへ対する理解不足から正当な評価をされていないことに起因すると著者は主張しています。
かくいう私も本書を読むまでは、ニホンミツバチとセイヨウミツバチの見分け方さえ知りませんでした。
生息数が減少したとはいえ、未だ日本各地に生息しているニホンミツバチは身近な存在であり、古くから人間と共存してきた友人でもあるのです。
そのニホンミツバチの持つ驚異的な能力、生態には驚くばかりであり、例えばセイヨウミツバチはオオスズメバチへ対して何の防御手段も持たない無力な存在ですが、ニホンミツバチは蜂球と呼ばれる群れでスズメバチを取り込み熱殺するという対抗手段を持っています。
また農作物や雑木林の受粉にも大きな役割を果たしており、ニホンミツバチは人間にとって有益ではあっても決して恐れる存在ではありません。
ちなみに、その殺傷能力で恐れられているススメバチでさえも他の昆虫を捕食することで、増え過ぎた害虫を駆除してくれるという点で有益といえます。
本書では人間に馴れることが出来るニホンミツバチに留まらず、危険なオオスズメバチとの付き合い方、またニホンミツバチをオオスズメバチから保護する巣箱の作り方まで広範囲に紹介しています。
加えてニホンミツバチはセイヨウミツバチとは違い、巣からの採蜜でさえも防護服なしで行えるほどの穏やかな性格を持っています。
一方で近場の山へ行っても人工的な杉をはじめとした針葉樹が目立ち、ニホンミツバチの食料となる広葉樹が少ない人工的な自然が多いことに悲しみを覚えます。
つまり「ニホンミツバチの生息が難しい環境」=「日本本来の自然ではない」ことを意味するからです。
ニホンミツバチは人間が住み着くはるか古来より日本中の山々の樹木を豊かにし、人間が農作物の栽培を開始した後にもその受粉を助け、さらには美味しいハチミツさえも提供してきたのです。
本書の後半ではそんなニホンミツバチが絶滅してしまった長崎県の多くの離島で、ニホンミツバチ復活プロジェクトに取り組む著者の活動記録が紹介されています。
普段ほとんどの人が見向きもしないニホンミツバチの驚くべき生態系を知ると、思わず野外でその姿を探さずにはいられなくなります。