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日米同盟の難問

日米同盟の難問

2012年に坂元一哉氏によって書かれた、還暦を迎えた日米同盟の課題を主題にした1冊です。

著者の坂本氏は大阪大学の教授であり、いわゆる有識者の一員として2002年の外務省主催の外交政策評価パネルの副座長として、また2006年には安倍晋三首相の私的諮問機関の有識者委員を務めた経歴があります。

現在、安保関連法案の閣議決議の是非を巡って国会が紛糾していますが、もっとも焦点となっている集団的自衛権の行使について本書では肯定的な立場をとっており、著者の集団的自衛権や憲法解釈に対する考えが自民党へ対し、ある一定の影響力を与えていると推測することが可能です。

本書は1冊を通じて著者の考えを起承転結で書いたものではなく、学会報告や国会での参考人陳述の原稿なども収められています。

著者の安保条約に関する論点は多岐に渡っていますが、そのポイントを以下に挙げてみます。

  • 政府は安保条約に関する密約(朝鮮半島有事に関する密約、核持ち込み)を公開すべき時期に来ている
  • 現在の「基地と安全保障の交換」という形での日米同盟はいびつであり、出来る限り相互防衛という本来あるべき形に近づけるべきである
  • 憲法改正を行わずとも、集団的自衛権の行使を容認する解釈は可能である
  • 昨今の国際情勢を考えると、日本の安全のために日米同盟強化が必要であり、その実現のために集団的自衛権の容認は必須条件である
  • ただし集団的自衛権の行使は慎重、かつ制限的であるべきである

おおよそ安部首相を中心とした自民党の説く安保関連法案の必要性と一致しています。

本書を読み進めると、「安保関連法案の成立=日本が戦争に巻き込まれる」という単純な理論では反論できないことが分かります。

戦争に反対するという立場は著者も一貫しており、つまり集団的自衛権を認めない憲法第九条の遵守と、集団的自衛権の行使を含めた第九条の解釈のいずれかが日本の安全保障にとってより戦争の「抑止力」となり得るかが論点になるのです。

集団的自衛権の行使を認めればアメリカと敵対する国との戦争に巻き込まれる可能性がありますし、その行使を認めなければ日本が一方的な侵略戦争の標的になったときに現行の日米同盟が充分に機能しない可能性もあるのです。

本書の内容と少し逸れますが、もっとも極論でいえば日米同盟を世界最強の軍事同盟に発展させて将来脅威となりうる国を先制して殲滅するという選択肢もあれば、一切の武力を放棄して侵略戦争の際には無条件降伏によって日本人の命を守るという選択肢もあり得るのです。

もちろん本書で著者の主張する考えは理論的であり決して荒唐無稽なものではありませんし、著者の考えに反論する識者の理論も同様です。

国際情勢含めた未来を完璧に予測することは誰にとっても不可能であり、どちらの理論も現実的である以上、やはり重要になってくるのは国民1人1人の考え、ひょっとすると個人の主義・信条、宗教観にまで関わってくる問題になるのです。

いずれにしてもその答えを出すためには、頭の中を一度リセットして両方の考えを客観的に聞いて考えるフェーズが必要なのではないでしょうか。

ただし少なくとも慎重かつ充分に民意を問わないままアメリカ議会で安保関連法案の改定を約束し、その閣議決議を目指そうとする今の自民党の姿勢には賛同できません。