レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

箱根の坂(中)



引き続き、後北条家の土台を築いた早雲の一生を描いた「箱根の坂」の中巻をレビューしてゆきます。

乱世の隙に乗じて大名になる気など毛頭も無かった北条早雲が皮肉にも立身出世してゆくきっかけは少々複雑ですが、順を追って説明すると次のようになります。

  • 早雲の義妹であった千萱が上京してきた駿河守護今川義忠の元へ嫁入りする。
  • やがて千萱は、義忠の嫡男となる竜王丸を出産したことで北川殿と呼ばれ今川家で重要な地位を占めるようになる。
  • しかし隣国遠江を争っていた義忠は、その最中に討ち死してしまう。
  • 嫡男である竜王丸は幼く、義忠の従兄弟であった範満により駿河の実権を奪われてしまう。
  • さらに隣国の堀越公方扇谷上杉家が介入してくるに及んで、竜王丸と北川殿の立場が危機的なものとなる。
  • 北川殿の要請により早雲が駿河へ下り、家督争いの調停に乗り出す。

ここで重要なのは、駿河へ下向した時点での早雲はこの時点で40代の半ばという当時としては初老ともいうべき年齢であり、しかも何の実力も持たない一介の浪人にしか過ぎず、唯一、北川殿の兄という立場のみが早雲を支える拠り所だったことです。

また長年に渡り繰り広げられた応仁の乱により京が荒れ果て、落ち潰れた名門のしかも傍系であった早雲が食い扶持に困っていたという経済的な問題も無視できないかも知れません。

ともかく早雲は危機的状況に立たされることによって本来持っていた政治的、また軍事的才能を存分に発揮する機会に出会ったのです。

自ら望んで殆ど空城になっていた駿府の東端にある興国寺城に入城するに及んで、小さいながらも一国一城の主となる早雲ですが、それはまるで遅すぎた青春が彼のもとにも訪れたかのようです。

前半生を過ごした京都で旧来の権力者たちの力が没落する様を身近に見てきた早雲には、新しい時代が到来する確信があったに違いありません。