レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

学・経・年・不問



城山三郎氏といえば実在した起業家、商社マン、官僚などをモデルとした経済小説家として知られていますが、本書はセールスマンを題材とした完全なフィクション作品です。

作品には高校からの同級生、伊地岡勇野呂久作という2人のセールスマンが主人公として登場します。

伊地岡は典型的なセールスマンであり、靴底を減らして足で稼ぐエネルギッシュでせっかちな性格です。

一方の野呂は出世や営業成績といったものに頓着しない、一見すると営業マンとしての適性が疑われるような、のんびりとしたマイペース型の人物です。

この正反対の2人は、ひょんなことから前職を辞めざるを得ない状況に陥り、同じ会社でベッドのセールスマンとして再出発します。

ちなみに本作品は1960年代に発表されており、ベッドが普及し始めた時代という背景があります。


セールスマン(営業職)といえば、今でもサラリーマンの代表格であるといえます。

彼らは自社の商品やサービスを売るのが仕事であり、最前線で戦う企業戦士といったイメージがあります。

一方でセールスマンには、"営業成績(=売り上げ)"という分かりやすい評価基準がついて回り、その優劣がハッキリと分かります。

つまり営業成績さえ優秀であれば、学歴や経験、年齢すらも関係なく評価される職業なのです。

もちろんこれは本質的な話であり、現実には必ずしも当てはまらない場合もありますが、それでもセールスマンを評価する重要な指標であることには変わりありません。

そんなセールスマンの姿を、まったく正反対の性格を持つ2人のセールスマンを通じて描いた作品であり、そこには彼らの喜怒哀楽が凝縮されています。

どちらかといえばシリアスな作風を持つ城山氏にしては、珍しいほどユーモラスに作品が描かれています。

そこには一癖も二癖もある人物が次々と現れ、何よりも主人公の2人が強烈な個性を持ち、それぞれのやり方で悪戦苦闘しながら成長してゆく姿が描かれています。

"営業の極意"、"トップセールスマンの条件"のような題名のビジネス本が巷の本屋で並んでいますが、ひょっとしたら多くの経済人を丹念に取材してきた城山氏の小説から得るものの方が多いかも知れません。

そしてセールスに関わる人でなくとも、小説として純粋に楽しめることを保証します。