何でもない話
遠藤周作氏による短編集です。
はじめに本書に収められている作品を紹介します。
- 何でもない話
- 姉の秘密
- 動物たち
- 爪のない男
- 恐怖の窓
- 猫
- 気の弱い男
- 尺八の音
- 知らぬが仏
- お母さん
200ページほどの文庫本に10本もの作品が収められていることを考えると、それぞれの作品はショートショートに近い文量です。
また全体的に地味なタイトルが多く、意識して読者の目を引き付けるような試みも見られません。
加えて遠藤氏の代表的な作品には長編小説やエッセーが多く、本書のような短編小説はそれほど多くはありません。
つまり遠藤周作氏の作品が好きな私もそれほど期待せずに本書を手に取りましたが、その予想は早くも最初の作品から良い意味で裏切られます。
むしろ近年読んだ短編集の中でも指折りの傑作と断言してもよい1冊です。
遠藤氏の代表的な長編小説では「罪」、「命の尊さ」といったテーマを独自のキリスト教的な視点で描いた重厚な作品が多いのですが、本書では同じテーマへ対して、短編ならではの軽快なフットワークで挑んでいます。
それでいて読書後の何とも言えない余韻は、長編の時と同じように残ります。
その他にも怪奇現象、動物、また医療を題材にした作品など、ファンであればいずれも遠藤氏がエッセーなどで話題にするテーマであることに気付くでしょう。
限られた紙面ということもあり、歴史上の偉人や、数奇な運命を辿った架空の主人公といった大掛かりな設定は一切使用せず、ありふれた日常の風景をディティールにこだわり鋭く切り取ったかのような作品は、まさしく正統な短編小説であると感じます。