レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

勇気ある言葉



遠藤周作こと狐狸庵山人が、古今東西のことわざ、名言、格言を自由(自分勝手?)な解釈でエッセーに仕立てた1冊です。

たとえば著者自身はカトリック教徒であるにも関わらず、こんな珍解釈を持ち出してきます。

右の頬を打たれたならば左の頬をさしだせ(聖書)

聖書の言葉は、右の頬を打たれれば、我慢しろ。相手がそれは衝動的にやったからである。しかし左の頬を差し出して相手のドギモをぬくか、正々堂々の喧嘩を挑めと言っているのではないだろうか。もちろん、聖書には相手を撲りとばせとまでは書いてないが、撲りとばすなとも書いていないところがまた面白い。
とにかく、右の頬を打たれた時、左の頬をさしだすのはイヤ味にして偽善的な行為である。聖書がかかるアーメン、ソーメン的イヤ味をすすめるはずはない。

もちろん冗談ではあっても、一面では無礼な相手に不当な侮辱を受ければ怒るのは当たり前であるという真実をも明らかにしているわけです。

その他にも「便秘は女の敵」、「ヘンな外人」といった名言でも格言でもないものまで解説しているところも狐狸庵山人の愛嬌といえます。

こうした冗談混じりのエッセーだけでなく、時には死刑制度、そして著者自身がのちに一貫して主張することになる医療問題に対してもテーマに取り上げています。

また著者は戦中派ですが、少なくとも同世代の80%は戦争はもうコリゴリだと考えているはずであるが、この反戦的な感情は悲惨な体験や感情から来る受身的なものであり、人道的な理念における反戦思想ではないと指摘しています。

極端に言えば戦争の被害感情が消えれば、その反戦主義も消えるかもしれない危ういものであると指摘しています。

普段はニコニコしている温厚な老人が、ふとした瞬間に鋭い目つきに変わり鋭い一撃を加える、まるで拳法の達人のような老師的雰囲気が狐狸庵山人にはあるのです。