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アキハバラ@DEEP

アキハバラ@DEEP (文春文庫)

TVドラマ、映画、マンガと各メディアに展開された石田衣良氏の代表的な長編小説です。

私はそのいずれも目を通していないため、今回読む原作が本作品に触れるはじめての機会になります。

連載された時期が2002~2004年ということもあり、当時のアキハバラ(秋葉原)の雰囲気が作品全体から伝わってきます。

その頃は私もPCを自作していたこともあり、秋葉原で掘り出し物を探すためにパーツショップを回った経験があります。

今や当時の店の多くが閉店してしまい、また大規模な再開発によって次々と老朽化したビルが近代的なビルに生まれ変わりつつあり、雑多でアングラな雰囲気が失われつつあることは個人的に残念です。

それでも秋葉原が"オタクの聖地"として賑わい続けていることに変わりありません。

話が少し脱線しましたが、ストーリーはページボックスタイコをはじめとした6人の若者たちが集まって会社を設立するところから始まります。

彼らはそれぞれの分野で優れたスキルを持っていますが、一方で外見または内面的なコンプレックスを抱えており、そのため社会に順応できない日々を過ごしていましたが、偶然あるサイトで出会うことによって結束力の固いチームの一員として再出発することになります。

ある意味で彼らは"オタク"の典型であり、一般的なコミュニケーションが苦手な若者だったのです。

やがて彼らは苦心の末に画期的な検索エンジン「クリーク」を開発しますが、その可能性に目をつけた巨大IT企業デジタルキャピタル率いる中込威の魔の手が迫ってきます。。

若者たちの葛藤を描く青春小説としての手法、ストーリーに起伏を持たせテンポよく進めてゆく石田氏の実力は本作品でも充分に発揮されており、あっという間に読めてしまう長編小説に仕上がっています。

また本作品を執筆するにあたって"秋葉原"、"インターネット"、"コンピュータ"、"オタク"といったキーワードへ対し充分に下調べをしてきた作家としての真摯な姿勢も垣間見られます。

ただ少し気になった部分として、はじめからドラマや映画化を意識して創作されたせいか、物語のクライマックス、そして大団円に向かって一直線に物語が進行し過ぎている傾向があります。

つまりもう少し本筋とは関係ないサイドストーリーを掘り下げてゆけば、奥行きのあるより良い小説になったと思いますが、このままでもエンターテイメント作品としては充分に楽しめるでしょう。