レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

イエスの生涯



カトリック教徒である遠藤周作氏は、日本人にとってのキリスト教文学を追求し続けた文学者です。

雅号として狐狸庵山人を名乗り、数々のユーモア溢れるエッセーを執筆したことでも知られていますが、やはり遠藤周作の本質はキリスト教文学にあるといってよいでしょう。

タイトルから分かる通り本書はイエス・キリストの生涯をテーマにした本ですが、遠藤氏が得意とする歴史小説ではなく、伝記形式で執筆されています。

私自身はキリスト教徒ではないこともあり、聖書をきちんと読んだ経験がありません。

そもそも聖書にはイエスの言行録としてマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4人の手による福音書が収められていますが、その成立時期や内容にもばらつきがあるため、そこからイエスの生涯を体系的に知ることは困難です。

さらに聖書の中からイエスの生涯を"事実"として知ろうとすれば、創作、もしくは矛盾する記載があることは多くの聖書学者が認めているところですが、聖書はキリスト教にとってたとえ"事実"ではなくとも"真実"であるため、その内容を書き換えることは許されません。

そこで著者はイエスの人物像、歴史、時代背景から、諸説ある中から妥当と思われるものを採用し、空白の時間を推測によって埋めてゆき、何より聖書から伝わってくる人間イエスの生き生きとしたイメージを大事して執筆しています。

ガリラヤ地方ナザレで大工を生業とする、ごく普通の顔だち、服装をした、当時の多くの人間と変わらない姿をしたイエスが登場するところから伝記が始まります。

やがて無抵抗のまま十字架の上で息絶え、そして復活するまでの軌跡が本書から生き生きと伝わってきます。

本書は日本を代表する文学者によって書かれた作品に相応しく、各国でも翻訳され世界中で評価されているようです。