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ピョートル大帝とその時代


ロシア近世社会史を専攻する著者(土肥恒之氏)が、ピョートル大帝(ピョートル1世)の改革やその成果をまとめた1冊です。

高校で世界史を専攻する学生であればピョートル大帝は必ず覚えなければいけない名前ですが、本書で触れられている内容はより詳細で専門的であるため、私なりに簡潔にその業績をまとめてみようと思います。

ピョートル大帝(ピョートル1世)は、17世紀終わりから18世紀前半にかけて活躍したロシア帝国の開祖とされる人物です。

彼の登場以前にもロシアは"ツァーリ"と呼ばれる専制君主によって支配されてきましたが、地理的には辺境に位置し、国土は広大であっても寒冷で肥沃な土地の少なかったこともあり決して国力は豊かではなく、ヨーロッパ諸国からは後進国と見下される位置に甘んじていました。

それがピョートル大帝が即位するやいなや軍備を西欧化することによって強化し、今までロシアに存在しなかった海軍を創設しました。

そして当時バルト海を支配していたスウェーデン大北方戦争によって打ち破り、新しく獲得した地に新都サンクト・ペテルブルグを建設してロシア帝国をあっという間に列強国に押し上げた功績を残しました。

ロシア帝国 → ソ連 → ロシア連邦 という大国としての系譜の礎を築き上げた人物であり、プーチンもピョートル大帝を尊敬する歴史上の人物として挙げています。

本書ではピョートル大帝の改革を触れるにあたり欠かすことの出来ない、当時の農民や商人、そして貴族の生活や法律、税や軍政度にまで踏み込んで解説しています。またロシア正教会の保護と古儀式派の弾圧といった宗教改革にまで踏み込んで言及しています。

つまりピョートル大帝が戦争(外交)、内政、宗教、教育で果たした改革とその成果を余すことなく網羅しています。

一方で伝記的な内容に対しては軽く触れられている程度であり、一般的な読者向けの解説本というよりも著者の研究成果をまとめたという側面が強い本になっています。

ピョートル大帝の軍事的な功績にのみスポットライトが当たる機会が多いですが、軍事的な成果を上げ続けるためにはそのための費用を捻出する必要があります。

つまり財政と表裏一体でなければなりません。

国内産業や外国との交易を活発にする経済的な政策にも力を入れましたが、もっとも大きな比重を占めたのが租税や新税による税収であり、当然のように苦しんだのは農民です。
加えて大規模な常備軍の創設により多くの農民が徴兵され、また新都建設のための労働力としても狩り出されました。

その結果として農民たちが逃亡し人口が減少するといった事態まで発生し、当時の過酷な農民たちの生活にも本書では触れられています。

ピョートル大帝は玉座にふんぞり返っているタイプの指導者ではなく、何でも率先して模範を示す実践派の指導者であり、時には自ら造船所で働くことさえしました。

また細かいレベルの指示に至るまで自ら行い、意欲的に広大なロシア帝国の統治に関わり続けました。

目の前で溺れた水兵を助けるために冷たい海に飛び込み、それが原因でひどい風邪をひき死を迎えるという最期の逸話までもがピョートル大帝らしいのです。