叱られる力 聞く力 2
副題から分かる通り、前回紹介した阿川佐和子氏による「聞く力」の続編です。
今回は「叱られる力」という少し変わったタイトルです。
学生や新人社会人の頃に叱られていても、年を取れば取るほどその頻度が減ってゆくことは容易に想像できます。
それだけに大人になった私たちが叱られると、反省よりも先に(自分を叱った人が年下や見ず知らずの人であればなおさら)すっかり尊大になった自尊心が傷つかないように言い訳をしたり反感を抱いたりするのが普通ではないでしょうか。
つまりいつの間にか(私含めて)大部分の人が叱られることに抵抗を覚えるようになるのです。
そしてもう1つ重要なのが叱る側です。
子どもはともかく、部下や後輩を叱るときにはそれなりの労力や覚悟が必要になります。
最近の若者は"叱られ馴れしてない"と言われますが、誤った叱り方をしてしまうと出社しなくなる、また最悪の場合には"パワハラ"として訴えられかねない時代なのかも知れず、本書ではスマートに叱る方法についても言及しています。
そして後半は「叱られ続けのアガワの60年史」という著者自身の経験が語られています。
著者の父親である阿川弘之氏は「瞬間湯沸かし器」というあだ名で有名であり、「子供に人権はない」、「家庭において父親は絶対」という環境に生まれ育ったようです(一説には父親が怖すぎて男が近寄らないために著者が未だに独身という噂もあるようです。。)。
よって父親に叱られるのに理屈や正論が通じないことも多かったようですが、この経験がのちにテレビ会社で怖いディレクターの上司を持ったときにも生かされたようです。
ここまで書いて思い出したのが、明治維新の元勲として陸軍大将まで経験した西郷隆盛の逸話です。
それは彼が官位を捨てて故郷の鹿児島に帰ってきたのち、ある日路上で見ず知らずの老婆に叱られた時、顔を真っ赤にして平身低頭して詫びたというエピソードです。
叱られた時に上手にくぐり抜けるテクニックも時に必要だと思いますが、結局は謙虚さと真摯さが大切になってくるように思えます。
本書は指南書というより、"叱られる"、"叱る"をテーマにしたエッセーのような作品であり、楽しくスラスラと読むことができます。