レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

地獄変


一度は読んでおきたい名作を、あなたの鞄に、ポケットに-。

角川系列と思われるハルキ文庫から出版されている"280円文庫シリーズ"のキャッチフレーズです。

いずれも日本文学の名作が収められており、本書には芥川龍之介の作品以下4篇が収められています。

  • 地獄変
  • 藪の中
  • 六の宮の姫君
  • 舞踏会

いずれも過去に何度か読んだことのある作品ですが、彼の作品はいずれも読み終わった時に強烈な感動や悲しみといったものが湧いてきません。

その代わりに何ともいえない淡い余韻が続き、意識せずとも断片的に作品の風景が頭の中に浮かんでくるのが特徴です。

例えるなら俳句のあとに残る余韻に似ているかもしれません。

そこが映像や絵によってストーリーが展開されてゆく映画やマンガといった媒体とは決定的に違う小説の特徴でもあり、とくに芥川龍之介の作品にはそれを強く感じます。

たとえば「地獄変」で見る者を戦慄させた良秀の描く地獄変の屏風はどのようなものなのか?

また「舞踏会」における鹿鳴館の優雅な様子などが、何となく頭の中に浮かんでくるのです。

こうした読了後の余韻に浸りたくて芥川龍之介の作品を繰り返し読んでしまうのかも知れません。

本書のような手頃な価格で場所もとらない文庫本を身近に置いておくというのも悪くありません。