被差別の食卓
大阪の被差別部落出身の著者(上原善広氏)は、子どもの頃に食べていた家庭料理が一般の人のまったく知らない食べ物だと分かったときに衝撃を受けたと告白しています。
そのときの体験をきっかけに被差別民たちの"ソウルフード"を求めて世界各国を訪れ、1冊の本にまとめたのが本書です。
ユニークなテーマに着眼した発想、そして行動力に冒頭から驚かされ、あっという間に読者を引き込んでゆきます。
上原氏が訪れたのはアメリカ、ブラジル、ブルガリア、イラク、ネパールといった国々です。
まず被差別民を取り巻く現状はどの国でもまったく同じということはありません。
アメリカでは奴隷として連れてこられたアフリカ系黒人を先祖にもつ人々が中心であり、ブラジルでも基本は同じですが混血の人々(ムラート)の人口が多いため状況は異なっています。
またブルガリアとイラクでは、ロマ(いわゆるジプシー)の元を訪れていますが、彼らが守っている文化はヨーロッパと中東で異なっているようです。
最後に紹介されているネパールでは、インドと同じく2000年以上の歴史を持つヒンドゥー教とカースト制度によって今も根強い差別が残っている国であり、被差別民を"不可触民"という差別用語で呼ぶことからも分かります。
世界各国で共通するのは、被差別民たちが使用する食材は一般人が見向きもしない、もしくは食べずに捨ててしまう部分を工夫して料理にしている点です。
こうした知恵と工夫はやがて差別意識が弱まるとともに世間へ普及し、日本ではモツ(内臓)を使った料理は完全に市民権を得ており、それはアメリカでも同様です。
中でも"フライドチキン"が元々ソウルフードだったという点は本書で知った驚きでした。
一方でハリネズミなど驚くべき食材も登場しますが、こうした各国のソウルフードを紹介しながら読者の好奇心を鷲掴みにしつつ、そこでの日常的な差別やその歴史についても言及している点は本書の秀逸な点です。
つまり差別問題を全面的に押し出すことで深刻な内容になることを避け、グルメレポート(?)を主題にすることで読者のハードルを下げることに成功しているのです。
必然的に世界各国のソウルフードを知ることは世界中に根強く残る差別を知ることになり、著者が本当に問いかけたいテーマに対しても意識せざるを得なくなるのです。